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激しい揺れの中を歩くのは容易な事ではないけど作戦を成功させる為にも諦めるわけにはいかないと指定された場所へと向かう。
スマホの明かりを頼りに目印を探していると地面がぐにゃりとした気がして立ち止まって足元を照らしてみたけど不審な点は見当たらない。
首を傾げつつ再び歩き始めたところで漸く揺れが止まっている事に気付いたものの船酔いのような感覚のせいで揺れているのか止まっているのか判断がつかない。
揺れが止まっているなら急がなければとフワフワしている頭をスッキリさせようと深呼吸をした私の視線の先に目印を見つけて声をあげる。
知恵さんから渡されたメモと照らし合わせても間違いないと確信した私は迷う事なく目を凝らして見なければ気付かない水滴ほどの小さいけど蛍光塗料のように光る印めがけて手斧を振り下ろす。
パチンっという音と共に数本の蔓が切れて地面に垂れ下がると微かな淡い光がふわりと空中に浮かんで思わずガッツポーズする。
幸先のいいスタートに気を良くした私は次の指定された場所へと向かいながら知恵さんが話してくれた作戦を思い出し頭の中を整理する。
この空き地には私達に事前には知らされなかった秘密がもうひとつあって天葛を閉じ込め消し去る結界があり完成させる為の準備は遠い昔に作り上げていたものの知恵さんの攻撃が天葛には通用しないと知り現代まで隠し続けていたという内容だった。
いつ現れるともわからない神咲家の子孫を待ちながら知恵さんは幾つもの時代を経ながら空き地を守り抜き天葛を欺く為に方々に結界を張って牽制していたのだと教えてくれた。
私がさっき手斧で切った葛藤の蔓は長い年月の中で空き地の周囲にまで巻き付いているものの中心にある木は天葛の元となった昌善の妻子の遺髪が埋められた場所なのだそうだ。
ただ妻子の遺髪は天葛を閉じ込める事に対しての効果はあるものの完全に消し去るには結界の中で神咲家の子孫が霊力を使わなければならないと聞かされたが蔓を霊力のない私が切る理由がわからず聞いてみた。
すると知恵さんは霊力の有無にかかわらず私と芽衣が神咲家の子孫である事に変わりはないという事や知恵さんや他の誰かが蔓を切ろうとしても不思議な事にどんな刃物を使おうと知恵さんが霊力を使おうと全く切れず自身が作り上げたはずの結界を完成させられなかったと少し悲しそうに笑っていた。
そして私が自らの手で蔓を切って結界を完成させる事で芽衣の霊力は高まり天葛を完全に消し去る事が出来る条件が揃うという言わば儀式なのだと答えてくれた。
儀式と言われてもピンと来ない私は蔓を切る事で結界が完成して天葛を消し去れるなら何十本でも切り落とすと知恵さんに言うと五ヶ所だけで十分ですよと微笑んでメモと一緒に手斧を渡された。
とはいえ私も蔓を切れなかったらどうしようという不安はあったものの目印をいざ見つけると絶対に切ってみせるという決意に変わり蔓は手斧が大袈裟に思えるほどあっさりと切れた。
神咲家の子孫でなければ切れない特別な植物でもないのに不思議だけど結界を完成させるなんて非日常的な事をしているせいか使命感のようなものが私の背中を押してくる。
二つ目の目印に辿り着いて手斧を振り下ろした私には一つ目の時ほどの驚きも感動もなく足早に三つ目の場所を目指して目印を見つけると同じく蔓を切り落とした。
残りが二ヶ所になり今更ながら緊張で胃がキュッと痛むけど歩調を緩める事なく四つ目に到着した私は振り上げた手斧を照らすスマホから伝わる振動に思わず手を止めた。
今この地域は天葛のせいで災害や事故で町中がパニックになっているはずで友達が呑気にメッセージを送ってきたとは到底思えず懐中電灯がわりに使っているスマホを確認する。
[彩月ちゃん急いで!!]
知恵さんから届いたメッセージに何かあったのだと悟った私はわかったと一言だけ返して手斧を握り直すと蔓を一気に切り落とし最後となる五つ目の昌善の妻子の遺髪が埋められた木へと走った。
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