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腕を掴まれた上に抱きしめられて身動きが出来ない芽衣はそのまま光を放ってしまったが自分を抱きすくめる人物が私だと気が付き大変な事をしてしまったと慌てているけど不思議な事に痛くも痒くもない。
「ん〜全然平気だよ?あったかいって感じただけなんだよね」
「良かった……あ、あの……彩月、ごめんね。理性を保てなくて……」
「それも大丈夫!ずっと居られなかった私が悪いんだし、ね?」
「ありがとう。ところで──【汝、我にとどめを刺さぬのか?】」
先ほどまでグッタリしているように見えた天葛は芽衣が理性を取り戻したからなのかいつの間にか女性の霊達が消えて居なくなった事で縛り付けてられていたものから解かれて地面にうつ伏せのまま倒れ込んでいる。
「えっ……私はいったい……何をしたの?」
「え〜っと大丈夫だから、芽衣は少し待ってて」
誰がどう見ても尋常じゃない光景に怯えている芽衣に真実を知られたくない私は天葛と話をしようと一歩前に出る。
「私、天葛の中に居る昌善と話したいんだけど、居るの?」
【天葛となりし時より、この身を離れる事は叶わぬ】
「うーん、離れられないけど居る事は居るんだ?」
【わからぬ。数多の魂を喰らい続けたゆえ】
そっかと頷いた私は傷だらけとはいえ動こうとも敵意を剥き出しにしようともしない天葛を不思議に思い訊ねてみる。
「ねぇ、結界の効果で大人しいの?それとも降参?」
【小癪な真似をと思わぬわけではないが、我とて愚かではない。死人である遣女に勝てぬと悟っておる。神咲の女子を侮ったゆえの敗北なり】
チラチラと様子を伺いつつも決して近寄ろうとしない芽衣に大丈夫だよと声を掛けて天葛にもう一度だけ確認する。
「ホントに昌善は居ないんだよね?」
【我とて元は人であったが名も思い出せぬ。そやつも同じであろう】
「そっか、じゃあさ、まだ神咲家を恨んでる?」
【ぬぅ……わからぬ。人の恨み辛みを喰らい続けた我は何者であろうな】
天葛が嘘をついているようには見えないという事は神咲家に対する昌善の遺志は刷り込まれているものの恨む理由が今となっては曖昧になっているという事なのだろう。
「私が言うのも変だけどさ、天葛も犠牲者なんだよ。神咲家の先祖がした事は最低だよ?でも恨む前に昌善自身にも落ち度はあったと思うんだよね」
ゆっくりと瞬きをした天葛は口を開く事なく私の話を無言で促していると受け取って先を続ける。
「だってさ、お嫁さんに本当の事を教えてあげれば良かったじゃん。それか一緒に故郷に帰ってあげれば良かったじゃん。お嫁さんを傷つけたくないからって、教えてくれないから飛び出しちゃったんじゃない。それって優しさでもあるけど、裏切りでもあるよね?」
何かを思案するように視線を彷徨わせていた天葛と目が合うと天葛が漸く汝は何ゆえに裏切りだと思うと質問をしてきた。
「お嫁さんに家族が亡くなってるって教えてあげてたら、落ち込んで泣いても慰める事が出来るよね?いつかはお嫁さんだって立ち直れるじゃん。でも隠されてたらさ、なんで帰ったらいけないのって、昌善の薄情者って思うじゃん。それって優しさじゃないよね?本当の優しさってさ、真実を伝えるのも優しさだし、辛い時に励ましたり寄り添ったりしてあげる事なんじゃないの?昌善がした事はお嫁さんへの裏切りだよ」
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