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私は葛藤から溢れた淡い光の声を聞いて直感的に昌善のお嫁さんだと思い耳を傾けたところ彼女が望んでいた想いを知り些細なすれ違いが悲劇を引き起こしたのだと天葛に説明した。
【ぬぅ……女子である汝も共感しておるのか?】
「当然だよ。昌善の行動次第で助かったかもしれないんだよ?隠したせいで、お嫁さんは故郷に帰って犠牲者になって。それで恨むっていうなら、まず自分自身を恨むべきじゃない?神咲家の先祖もクズだけどさ、昌善もクズだよ。自分の落ち度は反省しないで恨んで呪うって」
筋は通っておるなと頷いた天葛に少し驚いたけど時代が違っても女心なんて似たようなものだと思ったからこそ彼女の声を伝えようと思っていた私は役目を終えたような気分になった。
【我に女子の胸中はわからぬが昌善とやらの行いを良しとは思えぬ】
「天葛が理解してくれて嬉しいよ、ありがとね。話を聞いてくれて」
【ふっ、汝は不思議な女子よの。恨み辛みを口にせぬとは】
「私も天葛をずっと恨んでたから、おあいこだしね〜」
えへへと誤魔化すように笑う私を黙って見つめる天葛にどこまで彼女の想いが伝わったかはわからないけど理解を示してくれただけでも伝えた価値はあると思える。
「ね、ねぇ……彩月、少しだけ……いいかな?」
「うん!どうしたの?」
「あのね……あえて話さなかった昌善の気持ちも…お嫁さんが優しさとは思えなかった気持ちもわかるの。でも真実を伝える事が必ずしも正しいとは限らなくて、正解がわからないの……」
芽衣の言う通り正解はひとつではなく正解とも間違いとも判断がつかないのは個々の価値観によって捉え方が違うからだ。
「そうだね。私も偉そうに言ったけど、人それぞれ違うもんね」
「うん……私がお嫁さんの立場なら、隠してくれた方がいいかな……」
【ぬぅ……ますます女子というものがわからぬ】
さも難しそうに眉間に皺を寄せた天葛の表情が心なしか困っているようにも見えて二人して吹き出してしまい慌てて謝ると余計に困惑させたらしくポカンとされた私は話題を変えてみる。
「あ!ねぇ、もしかして……だけどさ、結界って効果なかったりする?」
【いかほどのものかわからぬが、心做しか穏やかになっておる】
「あのっ……痛みや苦しみは……ないという事、ですか?」
【うむ。数多の魂の叫びが渦巻く我が身が安らぎに満ちるなど久方振りゆえに、戸惑うておる。が、昌善とやらの魂が救われたのやもしれぬ】
天葛の意外な一言に驚いた芽衣と顔を見合わせる。
「もしかしたら……結界は救う為のもの、だったのかな……」
「ん〜わからないけど、お嫁さんの想いが通じて救われたって事なのかもね。私達からしたら手放しで良かったなんて正直言えないけど、きっとお嫁さんが昌善を引っぱたいてくれるよ」
クスッと笑った芽衣に笑顔を向けた私が本心からスッキリしているとは言えないけど前を向くには過去は過去と割り切るしかないならお嫁さんにビンタされろ〜と心の中で願うくらいがちょうどいいのかもしれない。
「さてと、そろそろ芽衣にバトンタッチだね」
ゆっくり頷いた芽衣と穏やかな表情でこちらを見る天葛にほんの少しだけチクッと胸が痛くなったけど終わらせなければならないのだから。
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