最後の遣女ー芽衣ー

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私と天葛(あまかづら)から距離を取った彩月の行動が意味するものはひとつしかなく遣女(つかわしめ)として粛清(しゅくせい)を行なえという事なのだろう。 感情に振り回されず過去の遣女(つかわしめ)達の恨み辛みに耳を貸さず最後の遣女(つかわしめ)として本来の意味での粛清(しゅくせい)を行う事が私の果たすべき最後の務めだ。 「私が理性を失っている間に……何をしたのかは聞きません……」 【ふっ……死人(しびと)(あなど)った我が敗北したにすぎぬ】 「天葛(あまかづら)……私はあなたを消し去ろうとは考えていません……」 【何ゆえ、そのような事を。情けなど無用、とどめを刺すがよい】 まるでそれが当然の報いだと言いたげに真っ直ぐ見つめる天葛(あまかづら)は恐らく消し去られる覚悟があるのだろうけれど私は間違っている気がしてならない。 【何を迷っておる。神咲の女子(おなご)に討たれる日が来たまでのこと】 「私は……全ての魂を安らかに成仏……させたいんです……」 【ぬぅ……我が身に喰われた数多(あまた)の魂をも救うと?】 「はい……あなたも犠牲者です。今のあなたを消し去る事が……正しい粛清(しゅくせい)だとは思えません……」 本来の意味は厳しく取り締まる事であり天葛(あまかづら)が全ての原因ではないけれど過去の行いも含め間違いを正した上で成仏させる事が粛清(しゅくせい)ではないかと考えた。 それに度を越した罰は理性を失った私が嫌というほど与えたと容易に想像が出来たからこそ血の粛清(しゅくせい)のような消し去るという方法をとりたくないのだ。 【(なんじ)の言葉は慈悲か、それとも情けか】 「どちらも正解であり……間違いかもしれません……」 【我に判断せよ、というか。ならば、言葉にせぬ】 「ありがとうございます……天葛(あまかづら)……」 深々と頭を下げる私の意図を天葛(あまかづら)がどう受け取ったかはわからないけれど知らないままでも良いと思えた。 【長きに渡る呪縛より解き放たれし我が身に渦巻く数多(あまた)の魂は何処(いずこ)へ向かうべきか。裁きを受けねばならぬ身でありながら皆目(かいもく)見当もつかぬ】 深い溜息をつきながらも天葛(あまかづら)として数々の非道な行いに対する罰を受けようとしていると知り私の良心がチクリと痛む。 「私にもわかりません……でもきっと導かれるような気がします。」 【ふっ……(なんじ)は死を受け入れておるのか、迷いが見えぬ。】 そう言われて言葉に詰まる私は迷いがないわけではなく受け入れなければ彩月や(しょう)君が前を向いて未来を歩けないからであって死者でありながら留まる事が許されるなら残りたいのが本音だ。 けれど霊力を使い果たせば私はきっと留まる事さえ出来なくなり嫌だと駄々をこねても成仏してしまうだろうという事もわかっている。 だからといって天葛(あまかづら)をこのままにする事は例え本当に昌善(しょうぜん)が救われた事で危険が全くなくなっていたとしても当然の事ながら出来るはずがない。 何故なら私が最後の遣女(つかわしめ)であり自らやり遂げると約束したのは他でもない自分自身で消し去るという方法でなくとも天葛(あまかづら)が喰らった全ての魂を成仏させるには霊力を使い果たすのは目に見えていて初めから留まるという選択肢は願う事さえ叶わない望みなのだ。 「はい……私に迷いはありません……」 頭の中では様々な気持ちが入り乱れているけれど天葛(あまかづら)に悟られないように真っ直ぐ見つめて答えた私は大嘘つきだ。 成仏なんて嫌だと泣いて怖いと叫び遣女(つかわしめ)の霊力なんか要らないと消えたくないとは決して口に出さないのが芽衣という女の子だから私は最後まで神咲 芽衣(かんざきめい)を全うする。
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