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『芽衣ちゃん!彩月ちゃん!』
声のする方へと顔を向けると息を呑んで私を見つめる知恵さんとまー君が居て翔君は何故かまー君の背中に乗せられているのが気掛かりだけれど長話が出来るほどの時間はないだろうと簡潔に天葛の最期を伝える。
『漸く終わったのですね。芽衣ちゃん、ありがとう……私が至らないばかりに全てを背負わせてしまいました。本当にごめんなさい……』
深々と頭を下げてくれた知恵さんに顔を上げて下さいと伝えた私は泣き続けている彩月から少し離れて知恵さんの傍に行く。
「この炎は私と一緒に消えると思います。書物の処分を……」
『えぇ、芽衣ちゃんの炎で全てを灰にすると約束します……』
「それから……翔君──〖お、おぃ!俺、ヤベェみてぇだ〗」
唐突に聞こえたまー君の言葉に遮られ視線を向けると今まで何事もなかったはずの彼の体が驚くほど消えかかっていて翔君を落としてしまわないようにする為か地面にそっと降ろしている。
「嘘……でしょ……」
私だけでなくまー君も消えかかっている今の状況に一言呟いただけで顔を両手で覆って咽び泣く彩月の辛さは遺される者にしかきっとわからないもので掛ける言葉が見つからない。
『彩月ちゃん……私にはその気持ちが痛いほどわかります。ですが……雅也君は亡くなった日から今日まで成仏したくとも出来なかったのです。どうか……送り出してあげてはくれませんか?』
知恵さんの言った事は紛れもない事実で昌善の願掛けのせいで成仏出来ずに居たのだから送り出してあげたい気持ちは彩月にも当然あるだろう。
けれど頭では理解していても理屈ではなく失う事実を認めたくないと心が拒絶するのを父が亡くなった時に私も経験したからこそ何も言えない。
〖姉ちゃん、泣いてくれてありがとな。あっちに着いてってやらねぇと、芽衣が迷子になっちまうだろ?っツーか、俺も一人じゃ怖ぇしよ〗
空を指差しながら言ったまー君が私を引き合いに出したのは少しでも彩月を落ち着かせようとしてくれているとわかったから口は挟まない。
「……うん、そうだね。芽衣の事、よろしくね」
〖任せとけっ!俺の俊足なら、天国まで一瞬だからよ〗
鼻をすすりながらも頷く彩月が無理をしているのは誰もがわかっていたけれどこうしている間もどんどん消えているという自覚がある私に迷っている時間はないと意を決して知恵さんに最期の願いを申し出る。
「翔君の記憶を……私の時のように……消して下さい……」
私の言葉に知恵さんも彩月もまー君も驚きのあまり声を失ってしまっているけれど翔君が背負うには重すぎる記憶だと思うから幸せな未来を歩く妨げになるくらいなら消してしまった方がいい。
「芽衣、それって……」
涙に濡れた顔で問い掛けた彩月が納得しない事だろうとはわかっていた。
どちらかと言えば彩月は苦難を乗り越えて前を向く性格だから翔君とは正反対で記憶を消す事は私の身勝手なエゴだと言いたいのだろう。
お腹の中から一緒に育った双子の私達でさえ価値観が違うのだから優しさだとは言い切れないけれど間違いだと言い切るのも違う気がする。
「優しさかエゴかは……翔君が決めてくれればいいと思ってるの……」
ずっと思い出さないかもしれないけれど何かの拍子に思い出してしまった時にどう受け取るかは翔君が決める事であって他の誰かが決めつけてはいけないと私は思っている。
『本当に良いのですか?芽衣ちゃんを忘れてしまうのですよ?』
「はい……構いません。それで翔君が苦しまずに生きていけるなら……」
「ちょっと、芽衣──〖姉ちゃん、これは芽衣と翔也の問題だろ?〗」
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