108人が本棚に入れています
本棚に追加
遺される翔君を考えて出した結論だけれど彼の答えを知る日は私には来ないからお揃いのペンダントを知恵さんに託す。
『芽衣ちゃん、わかりました……この責任は私が負いましょう……』
スッと片手をあげた知恵さんから放たれた白っぽい光が地面に横たわり気を失っている翔君の体の中へと飲み込まれたと同時に翔君の姿が消えた。
『これで大丈夫です。翔也君は自宅へ帰しておきました……』
〖おいっ!アンタ、なにやってんだよ!川が氾濫してんだろーが!〗
『雅也君、心配なのはわかりますが天葛が消失した今……もう街は落ち着いているはずです。私が翔也君を見守り続けると約束します……』
知恵さんとまー君のやり取りが遠く離れた場所から聞こえているような感覚に消えてしまうまでの時間が迫っているのだと悟った私は最期の時まで気持ちを伝えたいと彩月のもとへと戻り懸命に言葉を紡ぐ。
「彩月、今までありがとう……最期にわがまま言って、ごめんね……」
「ううん、言いたい事いっぱいあるのに、待ってよ、芽衣……やだよ」
「泣かせてごめんね……もう持たないみたい……だから─〖芽衣! 〗」
『芽衣ちゃん!』
こちらに気付いた二人が駆け寄ってくれたけれど言葉を話すだけで精一杯な私は彩月だけを見つめながら口を開く。
「彩月は……絶対に……幸せになってね……」
──私の分まで……いっぱい……いっぱい。
「彩月の妹で……私……良かった……」
──どんな時も味方で居てくれて嬉しかった。
「私の机の引き出し……三段目を……見て……」
──でも怒らないでね……大切な想い出だから。
泣きながら何度も頷く彩月を抱きしめたいのにいつの間にか触れられなくなっている私の体は何もかもがすり抜けてしまい叶わない。
伝えたい事はまだまだ沢山あるのに意識が朦朧としているせいで上手く言葉が出てこなくて途切れ途切れになってしまう。
「もしも……生まれ変われるなら……また双子に……なろうね……」
──もっと彩月と過ごしたかったから。
もう少しでいいから時間が欲しかったと切実に思うけれど映画やドラマのように現実は上手くはいかないようで視界の端に見えるまー君も今にも消えてしまいそうだと気付いて彩月に何か言ってほしくて彼を呼ぶ。
〖おい、俺みてぇな野郎に騙されんじゃねぇーぞ〗
「うん、雅也君、ありがと」
〖バーカ、雅也っつったろーが。幸せになれよ……彩月〗
「うん、ありがと……雅也」
静かに私達を見ていた知恵さんにありがとうございましたと伝えると感謝の言葉とともに涙を流しながらも翔也君の事は任せてと泣き笑いになってしまっていたけれど笑顔を見せてくれた。
笑顔が返せたかも自信がない私に逝くぞと目で訴えてくるまー君にかろうじて頷いたけれど彩月の声に途切れそうな意識を手繰り寄せる。
「芽衣!大好きだよ!私、忘れないから!ずっと忘れないからね!」
──彩月…本当に今までありがとう……私も忘れないよ。
「……私も……大好きだよ……お姉ちゃん……」
私の声が彩月に届いたのかも自分自身が人のかたちをしているのかホタルのような光になっているのかも確かめる術はないけれど伝えられなかった翔君への言葉を心の中で呟きながら私は本当の意味での生涯を終えた。
最初のコメントを投稿しよう!