シモベになりたい男

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シモベになりたい男

「僕を貴女の下部(しもべ)にして下さい。」 なんの脈絡もなく発せられたその言葉は 確かに私の耳に入った。 一瞬、幻聴かと思ってもう一度聞いてみる。 「すみません。 もう一度いいですか?」 「僕を貴女の下部(しもべ)にして欲しいのです。」 …どうやら幻聴ではないらしい。 「あの…今"シモベ"って言いました?」 「はい。言いましたが。」 「つまりはその…召し使いみたいな人の ことですよね?」 「そうですね。辞書で引いたらそう出てくる でしょう。」 クイッと長い指で眼鏡を押し上げる相手。 その姿は正に紳士。 スマートで文句のつけようがないくらいなのに。 どうしてこんな残念な発言をしているんだろう。 「あっ、ドッキリかもしくは罰ゲームですか?」 そうだ。 きっとそうに違いない。 生真面目そうに見えるからちょっと意外では あるけど。 でも、目の前のその人は真顔で 「まさか。 これは僕の心からの願いです。」 ───なんて言ってしまうんだから、私は 頭を抱えるしかなかった。
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