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美堂さんが弾かれたようにこちらに駆けてくる。
慌てて涙を拭いても遅い。
完全に見られてしまった。
「どうしたのですか?」
俯いた私の頭上から、美堂さんの心配そうな声が
響く。
その優しさが今は辛い。
何も答えられない私に、美堂さんは更に聞く。
「まさか、またあの男に何かされたんですか?」
ふいに、美堂さんが私の肩を掴もうとした。
それに対して私は反射的に体を退いた。
美堂さんの手が止まる。
「姫野さん…?」
「もう、構わないで下さい。」
口からついて出てきたのはそんな拒絶の言葉。
失礼だって分かってる。
だけど今の私には、自分で自分をコントロール
出来ない。
「何を怒っているんですか?」
怒る?
私は怒っているの?
確かに、勝手に美堂さんに裏切られた気持ちに
なった。
でも違う。
怒っているんじゃない。
どうしようもなく悲しいんだ。
「私はっ…単純なんです。
尽くされたり優しくされたら…勘違い
しちゃうんです。
…しかもキスまで。
婚約者が出来たなら、もう構わないで下さい!」
「キスをしたことは謝ります。
あの時は自分を抑えられませんでした。
しかし、構うなと言うのは無理です。」
「だからっ…そういう勘違いさせるような
ことを言わないで下さい!」
「勘違いとは?」
本気で分かっていない様子の美堂さんにひどく
腹がたった。
顔を上げた私は、その綺麗な顔をキッと睨み
付ける。
「私のことを好きなんじゃないかって、勘違い
するってことです!」
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