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えっと私が声を上げるより早く、周りから歓声に
近い声が沸き上がる。
そこでやっとハッとした。
そうだ。
ここは会社で、場所はエレベーターホール前。
しかも今はランチタイム。
周りは同僚だらけだ。
好奇の目に晒される中、美堂さんは私の腕を
掴んでいない方の手で眼鏡をクイッと押し上げた。
「ここではゆっくり話しが出来ませんね。
移動しましょう。」
私が返事をする前に、やや強引に腕を引かれる。
周りの冷やかしの声に一切動じることなく、美堂
さんはスタスタと長い足を進めた。
何が何だか分からないまま、私は腕を引かれて
着いていく。
連れて行かれたのは、数ヶ月前に下部になりたい
宣言をされたあの会議室。
全ての始まりの場所と言ってもいいかもしれない。
部屋に入ったとたん、パッと腕は離された。
美堂さんはじっと私を見つめると、軽く息を吐く。
「僕の気持ちは勘違いではありませんが、貴女は
何か勘違いしているようですね。」
「勘違い?」
「婚約者のことです。」
そうだ。
美堂さんの突然の告白に動揺して一瞬、忘れてた
けどそれが一番の問題。
「見学に来ていた人…あの人は婚約者なん
ですよね?」
「確かに婚約者です。」
ズキッとまた胸が痛んだ。
だったら、何で私に告白なんてするの?
俯いた私に美堂さんは続ける。
「ですが僕の婚約者ではありません。
専務の婚約者です。」
「………え?」
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