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復旧
そのあとはタカラ建設が総力を挙げての道路復旧と、はるかの乗った車を見つけて救出。もちろん断線したところもしっかり新しいケーブルをつなげて通信できるようになった。
「なにしろカーブ曲がったらいきなり崩れていたから崖側じゃない方に寄せて突っ込むしかなくてなあ。」
「しかしあの車、すげぇなあ。」
「パパー、おなかすいたし。私、先に家に入ってていいよね。」
大人の面倒な話に付き合いきれないとばかりに、さっさと家に向かうはるか。フェイスシールドはヒビが入っているようだけど、なんとか使えるようだ。救出されたときに、外に出たとたんに滑って泥まみれになっているから、早く風呂に入りたいんだろう。
「あはは。はるかちゃんには、かなわないなあ。」
「いつまでも子供でお恥ずかしい。」
「いやあ、しかしあの車、なんなんだ?普通、あれだけ突っ込んだら中の人間は無事じゃねーぞ。」
「一応、耐災害用で開発しているやつなんで。」
一郎はタカラ建設の一部門の災害などに強い車の開発チームで働いているので、たまたま新しい機能を搭載したやつに乗っていたのが良かったようだ。
「さすがだなあ、一郎の作ってるやつだけあるよ。」
「強化シールド内臓で土砂災害だけじゃなくて水害で車内に閉じ込められたときにも使える奴なんだ。」
「いやあ、しかし二人とも見つけたときに爆睡してたもんなあ。腹が座ってるよ。」
「だって勝也が絶対に助けに来るって分かってたしな。」
多加良浦の大将、親方、菊花のダンナ、センパイの父親、勝也が照れくさそうに頭をかいた。
「ば、馬鹿野郎。あったり前じゃねーか。」
「とにかく、うちで飯食って行ってよ。」
「当たり前だろー。お前んところの飯が食いたくて頑張ったんだぞ。」
「ちぇ、やっぱりな。」
「大木渡のうちの飯、滅多に食えないからなあ。絶品ハチの子ご飯っ。」
「好きなだけ食って行ってくれ。」
「おお、言ったなーー。明日の飯が無くなっても知らねーぞっっ。」
そんな大人の会話を後ろに家の見えるところまで来ると玄関前にクニエがいるのではるかはビックリした。
「オーキドぉぉ、よかったぁぁ。」
走り寄ってくるクニエをディスタンスのために手を前に出して制止する。
「あっ、近づいちゃだめだよ、私めっちゃドロドロだしぃ。フェイスシールドもヒビ入っちゃってるしさー。それにどうやってここに来たのさー。」
「とりあえず一緒に風呂入ろう。風呂場で語ろうっっ。なぜ私がここにいるか、じっくり語ってやるー」
「ええーー、一人で風呂に入らしてよぉ。」
「一緒に風呂にはいるのが嫌なら、ここで抱き着いてやるからっっ。」
「わ、わかった。わかったから、先に風呂場に行ってて。泥をあんまり家の中に持ち込みたくないし。ママに泥んこだからって言ってくれる?」
「わかった。玄関でちょっと泥を落とせるようにしてって言えばいいよね。あ、あと着替え一式だね。」
「うん、よろしくー。」
バタバタきゃあきゃあと玄関先でディスタンスとりながら、じゃれる女子二人。
「おやおや、仲がいいねぇ。」
「あ、おばーちゃん。」
「あたしゃいまから、ちょっと薪を拾ってくるよ。タケシさんに切ってもらったやつ、細かく刻んでおかないとね。」
「はーい、行ってらっしゃーい。」
軽トラにチェーンソーを積み込んで、よっこらしょと運転席に収まったかと思う間もなく、あっという間に山道に消えていく。
「相変わらずカッコいいなー。」
「惚れてもダメだよー、うちのおばーちゃんに♪」
「わかってるってー。タケシさんがうらやましいぞっ。」
はるかはドロドロの服を脱いでフェイスシールドを外して脱衣所から外を眺めると外で宴会が始まろうとしている。
宴会といってもアルコールナシの昆虫食とジビエのパーティ。タカラ建設の作業員も続々と集まってきて肉の塊を奪い合ったり、おにぎりを両手に持って右と左を交互に食べるという贅沢食べをしていたり。それでもディスタンスとりながら、時間差もつけて大人数にならないようにしながらの宴会。
ママは大忙しだろうな。私も早く手伝わないと。
玄関に入る前に少し泥は払ったものの、脱衣所に敷いたシートの上で服を脱ぐ。
「あっ、ズボンのシミ・・・まあいいか。どうせドロドロになっちゃったし。」
「えー?なに。ズボンのシミ?」
もう風呂場で湯につかってるクニエが聞き返してきた。
「なんでもないって。それよりクニエ、どーやってここに来たのさー。」
「話せば長いことながら・・・。」
「もー、もったいぶらないでよぉ。」
女子二人、風呂場で延々と語り合った挙句、湯あたりしたところを帰ってきたばーちゃんに見つかって介抱されたなんてことは、ご内密に♪
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