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とある西洋の国の大きな館。
そこには数十年前に成功し多くの財産を手に入れた老人が住んでいた。
私たちはこの老人を「ご主人様」と呼び、奉仕を続けていた。
もちろん、こんな老人をこんな広い家で介護するのはそう簡単ではなく、私以外にも数人の奉仕者がいた。
その奉仕者の中でもトップに立っていた私は、老人の指示に従いほかの奉仕者を指揮し統制していた。
この老人は、奉仕者を募る時ある条件を開示した。
「見た目が特に優れている女性」と。
たしかに、ここにいる奉仕者は、街を歩いている一般人より遥かに見た目が優れている。
世の雇い主が奉仕者に求める条件としてはありがちだが、この老人は見た目で満足することは無い。
普通なら許されない行為だが、強制的に性的な行為を行っているのだ。
「金を払ってやってるんだからこれくらいしろ」とか、「残り少ない余生を楽しませろ」とかほざき、新人を犯し蝕んでいった。
私もこの老人に犯された一人で、それは普通だろうと思っていた。だが、それは違った。
夏休みのことだ。
1週間だけ仕事休みをとり、違う雇い主の下で働く仲間二人と街へ食事をしに出かけた。
去年の夏休み以来の事だったので、その日は楽しく友人との触れ合いを満喫した。
ワッフルを注文し、ホークで口の中へ運ぶと、友達のひとりがこう言った。
「レイは最近どうなの?」
レイ、とは私の名前だ。本名ではないが、友達からはこう呼ばれている。
「別に、何も変化はないよ」ワッフルを噛みながら、不明確な発音で続ける。「最近新人が多いことくらいかな。クビにされてる人も多いよ」
質問者ではない友達が問う。
「なんで辞めちゃうの?」
「ご主人は「飽きたから」って言ってたよ」
「「飽きた??」」
驚いた顔で問うてくる。
「そうだよ?」
私はこれが当たり前だと思っているので、なんでこんな顔をするのだろうと疑問に思いながらワッフルを完食した。
「それって、体の関係を持った男女が飽きたみたいだね、ははっ」
何を言っているのだ?奉仕者はご主人の性欲を満たすためにいるのだろう?
「そうだよねー、私たちが性欲処理人形になるって思えたら吐き気がするよ!」
私が間違っているのか?こんな仕打ちを受けるのは私たちだけなのか?
「もしかしてさ、性欲処理のために雇われてたりしない?」
何故だ、私は騙されていたのか。私は、私は、、、。
「性行為は、何回もした」
その瞬間、二人は飲んでいたジュースを思いっきり吹き出した。
帰路も、ずっと先程のことが忘れられなかった。
私は騙されていたのだ。これは、私たちだけの日常であり、他の人間からしたら常識外れの異常行為なのだと。
その二人から聞いたことによると、性行為は赤子を作るために行う行為で、悪い男は強制的に女を蝕むという。
たしかに不適切な行為であることは重々承知であったが、これが奉仕者への正当な報いだと思っていたのだ。
それで、今日に至る。
夏休みが明け、またこの館に戻ってきた。
恐らく、今日もまた性行為を行うだろう。
異常行為なのだ。普通の者から見れば。
私は一般的な制服に着替え、足早にリビングをめざした。
「おはようございます、ご主人様」
「久しぶりだな、紅茶を出してくれ」
「お久しぶりでございます。紅茶ですね、かしこまりました」
紅茶を入れ、老人の目の前に置いた。
老人はその紅茶を、ズルズルと音を立てながらゆっくりと飲む。
私はしばらくそれを眺めていた。
すると、廊下からズタズタズタと、走ってくる音が聞こえた。
「お、お、遅れました!」
入ってきたのは、最近入った新人だ。
「ご主人様のお昼ご飯を用意しなさい」
老人は遅れてきた新人に何も言うことなく、ただ紅茶を頬張るだけだった。
新人は、キッチンでお昼ご飯を急いで作っている。そこまで急ぐ必要は無い。まだ午前の十時だ。
汗を撒き散らしながら料理をしている新人は、手を拭き忘れたのか皿を手から滑らせ、割ってしまった。
これは、老人のお気に入りのさらであった。
「何をしているの!」
私が注意すると、新人は怖い顔でこちらを見た。
「や、や、やってしまいました…」
「何をしている」
終わった、と確信した。
新人は私に引き摺られ、リビングに連れてこられた。
「やめて、やめて」と悲鳴をあげながら。
もうここまで来ると、無事では済まないだろう。
私は少し目を逸らせた。
ザクッ…ザクッ…
いやああああああああ!
何かがえぐり出される音と共に、女の叫び声が嫌という程聞こえてくる。
私の顔、服にも赤い液体がかかり、汚れていく。
ザクッ…ザクッ…
あ、あ、
悲鳴が掠れた声に変わっていく。
私はもうこの光景を見なれてしまった。
同期と呼ばれるものは全てこの老人に殺されたし、今まで入ってきた新人もほとんど殺された。
私は、一度もミスを犯さず、従順にこの老人に支配されていたのだ。
慈悲のない老人。それを涙ひとつ流さず真顔で見る私。
これが普通だと、思っていた。
性行為が普通でないのなら、これも普通ではないだろう。
女の声がやんだ。
死んだのだ。こいつに殺された。
「こいつはクビにした。次は誰をクビにするか」
「ご主人様、お昼ご飯は私がお作り致します」
「いや、まってくれ、今は食欲より性欲を満たしたい」
性行為だろう。そう、確信した。
「わかりました」
私は壁に手をつき、尻を老人の方へ差し出す。
これも慣れたものだ。こうやってやると、老人が私のスカートと下着をぬがせ、自らもズボンと下着を脱ぐ。
その、ズボンと下着を脱ぐ瞬間がチャンスだと、考えた。
まずは、スカートを脱がされる。
サーッ、という音と共に、ゆっくりと下着が顕になる。
老人のハアハアという吐息が、背中に伝わってくる。
次に、下着が脱がされた。もうこの時点で、老人の興奮はマックスだろう。
ズボンを脱ごうとした、その時であった。
私は裸になった下半身をものともせず、回し蹴りで老人の横腹を蹴った。
間髪入れずに、先程新人を刺したナイフで老人の心臓を貫こうとした。
しかし、その老人は既に息をしていなかった。
蹴られ、後ろに倒れた衝撃で後頭部を打ったのだ。
即死だったのだろう。
老人が言っていた、「死体を誰かに見られてはいけない」という言葉を思い出し、ナイフを手に立ち上がった。
これで全員クビにしないと…
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