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思い切って、神永さんに自分から話題を振ってみることにした。監督が言っていたことが本当か半信半疑だった。こんな有名声優が自分の作品のファンだとは、にわかに信じ難かった。それでも、本当に自分の作品のファンだったら、素直に嬉しいなと思った。
神永さんは一瞬、目を丸くして驚いた表情を見せていたが、すぐにいつも通りの真顔に戻り、にっこりとほほ笑みながら、返答してくれた。
「監督が話したんですね。本人を前にそんなことを言われると、恥ずかしい限りです」
「いえ、私の作品を好きになってくれる人が一人でも多いのは、作者冥利に尽きます。それが、超人気声優の神永さんなんて、うれしすぎて現実味がない感じです!」
「そう言ってくれると、私もうれしくなります。そうだ、浅羽先生の作品について、語りたいことがたくさんあるんです。この描写はどんな気持ちで書いていたんだろうとか、どんな意図で書いたんだろうとか、伏線の入れ方とか、もし、本人に会える機会があったら、ぜひ聞いてみたかったんですよ!」
遠くで、「またやってるよ、神永の奴。男性慣れしてない女性口説いてる」「ああ、いつものあいつの悪い癖だな」「でも、アニソン歌手のあの子と同棲中で婚約間近だって」という、不穏な会話をしている男性陣の話は、残念ながら、私の耳には入ってこなかった。目の前の彼のイケメンな笑顔にほだされてしまい、私はまんまと彼の餌食となってしまった。
まぶしいくらいの笑顔で、自分の作品について語りたいと言われれば、私の答えは一つしかない。つまり、話をぜひ聞きたいという返事だった。
「ここではゆっくりとお話しできませんから、これから二人で飲みなおしませんか?もちろん、誘っているのは僕なので、僕のおごりです」
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