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「何で!?」
珍しく慌てる泉李に、住吉は余裕な笑顔で腕を組んだ。
「すみません、駅に行くにはどちらへ行けばいいのですか?、と聞いてみただけですよ。彼女は笑顔で丁寧に教えてくれましたよ。ご案内しましょうか?とまで。
知らない相手に危ないなぁ、羽菜ちゃんは」
住吉のまともな話かけをした事に、安堵のため息をつく。
その顔を見て、住吉はまた笑った。
「ここ2週間程、彼女の身辺を調べてきましたが、素直で、生きるのに一生懸命ないい子だ。
ただ綾元に合うかどうかは別としてね。ノホホンとした守らなくてもいい遺言だ。坊っちゃんのお母様が何というか」
泉李の母は、父と見合いだった。
泉李の父が持つホテルの1つ、その総支配人の娘と結婚した。
しかし、見合いと言ってもお互いに好意を持って、結婚を前提に普通に彼氏彼女として1年を過ごし、結婚した。
彼女は泉李が、自分と同じように親が決めた見合い相手と結婚する事を望んでいる。
泉李の父は、ボンヤリと自由にしたらいい、と思っているようだが、妻の意見に反対する気もない。
ただ、泉李も、別に何も知らない羽菜の事を好きになっているワケではない。
曽祖父母の遺言の女性が気になっただけだ。
「……いや、好きになった訳じゃない。ただ、もし、遺言通りなら、と思ったから」
千里の言葉に、フフっと鼻で笑う。
「結婚関係なしに、恋愛は沢山した方がいいですよ。女性はどんな生き物か分からない」
そんな事を言う住吉は、恋愛経験が多そうだ。
「好きになると言うのは、何かキッカケがないと無理だ。
彼女を知らなすぎるし、もう話す事がないかも知れない」
住吉はハハハッと大きな声で笑った。
「そりゃそうですね。まぁ、曾祖父さまが言う女の子がどこにいるか分かったし、これでいいんじゃないですか?」
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