出会い

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住吉が調べてきた羽菜の少しの詳細を知ったあと、本当に羽菜に会う事はなかった。 しかし。一応ハンバーガー屋に再び見には行った。 クーポンを配る係は他の誰かに代わり、ちらりと店内を覗いても、羽菜の姿は見えなかった。 まぁ、いいか。 結局、縁と言うものがなかったんだな。 泉李は羽菜をもう探したりする事はなかった。 その気持ちに慣れた数週間後。 春の陽射しが少し眩しく、そして肌寒いというより、暖かいと感じ始めた頃。 泉李はたまたまその日はいつもは歩きの登下校なのに、自転車を使った。 体育の授業で柔道着を使ったのと、選択科目の美術で画材道具を持って帰らないといけなかったからだ。 車を住吉に頼んでも良かったが、いちいちそんな理由で車を使うのは好きではなかった。 駅前のロータリーを横切り、信号を渡って真っ直ぐ商店街の隣の道を行くのが一番早く帰れる。 でも、泉李は、駅前の休憩スペースで前田高校の制服を着た男女が目に入った。 男の方は勿論初めて見る顔だったが、女性は、あの羽菜だった。 泉李はギョッとする。 忘れかけていたのに、また羽菜を目にするとは。 「近くに公園あっただろ?ちょっとそこ行こう」 「え?なんで?私忙しんだってば」 「今日バイト休みなんだろ?」 羽菜は眉を寄せて、心底迷惑な顔をしていた。 「貴重な休みを有意義に使いたいのよ、私は」 「何だよ。じゃあそれに付き合うからよ」 「えぇ?祐太郎アンタ暇なの?」 明らかにこの祐太郎という男は、羽菜の事が好きなんだと思った。 羽菜と一緒にいたいのだ。 しかし、羽菜は知ってか知らずか、迷惑そうな顔をやめない。 「あんたもさ、年頃なんだから、好きな女の子いるでしょ?その女の子にでも、声かけてきたらいいのよ。 あんた、見た目はそんな悪くないんだからさ!」 そう言って、祐太郎の肩をぽんぽんと叩く。 ……自分を好きだとは気付いていないようだ。 どうやら、かなりの鈍感娘。
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