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「……とにかく!どこ行きたいんだよ!?こんな女でも、物好きな変態いるかも知れないしな。仕方なく一緒にいてやる」
「はぁ!?」
羽菜が怒るのは無理もない。
羽菜じゃなくても怒りたくなるセリフ。
「なんで、アンタなんかにそんな事を言われなきゃなんないのよ!アンタと一緒にいるくらいなら、物好きな変態と一緒にいた方がマシよ!!」
彼女は、まるでノラ猫が人間を威嚇するかのように、シャーと口を開けた。
高くて大きな声を出し、駅で行き交う人達の注目を浴びる。
祐太郎は、その勢いに負け、彼女を宥めようと両手で彼女の肩を撫でようとしたが、羽菜はその手を振り払う。
「私の時間は私のモノなの!折角の私の時間なのにどうして腹をたてなきゃならないの!」
その勢いのまま、自転車にまたがり、祐太郎の前から去る羽菜。
祐太郎は何も言わずそのまま彼女を見送った。
日本人男性の大半は、女性が望む言葉を発したりしない。
照れがあるのは分かるが、相手を怒らせてどうする。
自転車のスピードで更に小さくなっていく羽菜を、
泉李は自転車で追いかけた。
何故彼女を追いかけたかわからない。
羽葉が自転車を立ち漕ぎでスピードを出すのは、もうあの場所にいたくなかったのだと思う。
「あ、の!すみません!」
声が届く範囲に近づき、泉李は後ろから声をかけた。
ただ、彼女にはまだ聴こえていない。
「あの!すみ、ません!」
羽菜のあまりに速い自転車を追いかけながら、呼びかけるのは大変だったが、羽菜の耳に泉李の声が届いた。
一瞬振り返り、自転車を漕ぐのを緩める。
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