出会い

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そして、羽菜は自分を追いかけてきている泉李を見て、自転車のブレーキをゆっくりとかける。 泉李は羽菜に追いつき、彼女の少し後ろで自転車を停めた。 わざわざ彼女を追いかけた意味が自分でもよく分からない。 だから、泉李は以前ハンバーガーを食べたあと、羽菜に声をかけた時のように、言葉を探した。 「綾元くん、ですよね?」 泉李が話すより先に、羽菜の方から話をした。 しかし、顔に前に見たような笑顔はない。 「な、何故僕の事を?」 羽菜は、ようやくそこで笑顔になったが、その笑顔は眉を八の字にし、困ったような、呆れたような微妙なものだった。 「うちの高校でも綾元くんは有名よ。 私の友達にもあなたのファンは多いから」 自分の事を、そんな他校の生徒も知っているほどだなんて思いもしなかった。 と言うか、泉李は全く興味がなかった。 しかし、この婚約者が自分の事を知っている、と言うことに少し満足した。 先程話していた"変態"には間違えられずには済みそうだ。 「でも、綾元くんが、私に何の用…?」 あの徳原学園に通う、お金持ちでイケメンで、女の子たちが頬を赤らめて大騒ぎする綾元泉李が、何も持っていないオンボロアパートに住む貧乏な自分に、一体何の用があるのか全く想像もつかなかった。 祐太郎と駅前で別れたあと、何か落とし物でも拾ってくれたのかと考えて、制服のポケットに手を突っ込む。 「いや、あの…」 言葉をまだ探していた泉李は、普段の落ち着きを失い、目を左右に動かした。 彼女はカールされたまつ毛を更に上向かせ、大きな瞳を泉李に向け、小首を傾げて話を待っている。 「あの、その、小神野 羽菜さん!」 珍しく泉李が大きな声を出し、羽菜も少し肩に力を入れて、彼の顔を見つめ返した。 彼女もまた、自分のフルネームを泉李が知っている事に驚いた。 「僕と結婚しましょう!」
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