自分

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この人、今、結婚しましょうって言った? 羽菜は自分が聞き間違えたか、それとも誰かと他の人と誤解したのかと思い、後ろを振り返る。 「いや、あの、勿論僕たちはまだ学生だし、そもそもお互いを知らなさすぎるし、すぐにとは言わない。 でも、考えて欲しいんだ…僕たちはー」 「ちょっと待って、ちょっと待って!誰と誰が結婚する話?」 「君と僕だよ、小神野さん」 晴れた空に真っ白な雲が2人を見下ろす。 ゆったりと流れていく雲以外、泉李のプロポーズを辺りに見ている者はおらず、羽菜が自分へ話しているとしか思えないと確信した。 「何で…?私は綾元くんみたいに何も持ってない。 お嬢様でもなければ、綺麗な顔もない、貧乏人なんだけど」 「綺麗な顔もない?小神野さんはそんな事はない。 目はクリクリで大きくてかわいらしく、ぽってりとした、ピンク色の唇がとても可愛いよ。ポニーテールも似合ってる」 ここは映画館で洋画でも観ているのかと羽菜は思った。 スラスラと自分を男性が褒めてくれる。 祐太郎なら私の横にいつもいたけれど、ハムスター、狸、ちょこまかするリスと動物に例えられた。 少し恥ずかしくなる。 「それに…私はあなたの家柄に合うようなお金持ちでもない。普通に考えてあなたのご家族が許す訳ないわ。 一体急にどうしたの?私達前にハンバーガー屋で会った時以来のほぼ、初対面じゃない」 勿論それは泉李もわかっていた。 しかし、口から漏れたのは、彼女に対してプロポーズの言葉だったのだ。 ハンバーガー屋で出会っていた事を覚えてくれていたのを嬉しいと思いつつ、泉李自体も自分の発した言葉に内心驚き、そして、言い訳のように話をとってつけている。 「ま、まぁ何故そんな話をしたか落ち着いて話を聞いて欲しい。ここから、僕の家が近い、お茶と何かお菓子を用意するよ。一緒に来てもらえないかい?」 「嫌です」 「え?」 「きっと、何か賭けでもしているんでしょう?誰かと一緒になって、庶民の私が大金持ちの貴方についてくるかどうかとか。綾元くんと私は友達でも何でもないもの。ましてや、知らない男性のお家に、二つ返事で入れる訳ないでしょう」
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