自分

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我が許嫁は、なかなか手強いと言うか、人懐っこくはないようだ。 ハンバーガー屋の時の、あの笑顔は、優しささえ感じたのに。あれも営業スマイルだったか。 確かに今の羽菜は、泉李の事を敵が目の前にいる顔をして見つめていた。 警戒心の塊だ。 どうしたら、分かってくれるのか。 「さっきの話は、ナシだ。とりあえず友達になって。それなら話を聞いてくれるかい?僕は君に何もしないよ」 野良猫に、機嫌を取りながらオヤツでも出すように優しく言った。 しかし、泉李を見つめた目は人を信用しないピリピリしたままなのだ。 きっと、お互いの両親の知るお嬢様は喜んで彼の家へ招かれたのであろう。 私はきっと、行ったところで貧乏人を見に、金持ちたちが複数集まって、大笑いされるのだ。 そう思った。 「君に嫌な思いをさせやなんてしないよ」 そう言って自転車から片手を離し、泉李は片手を差し出した。 「友達になる握手をしよう」 羽菜はその手にピクリと身を一瞬引いた。 この手に触れたら、 みんなが私を笑いものにするーーー ところが、彼の目は、その野良猫が本当に懐いてもらいたいような、自分の手からオヤツを貰って欲しいかのような優しい目で羽菜を見ている。 目を少し細めて羽菜を見つめる目に、悪意を感じはしない。 「な、何故私と友達に?」 おどおどする羽菜がやっと口をきいた。 嬉しくなった泉李は、それを顔に出さずに彼女が怯えないように優しい表情を崩さぬまま、答える。 「それは僕の家で、ゆっくりと話すよ。君はどんな飲み物が好き?」
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