おとぎ話

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しばらくすると、泉李の部屋の扉がノックされる。 「どうぞ」 ゆっくり、羽菜が部屋に顔を覗かせた。 「仕事はどう?進んでる?私は一通り、済んだところ。」 「僕の方も、まぁ、あとは普通に指示していけばいいところまできたよ。のんびりとはいかないけど。 まぁ、でも、これを見て」 泉李は自分の机を指差す。 「パンフ?多!」 羽菜は驚いて机に近づいた。 そして、ペラペラとパンフレットを見る。 「私は、そんなに豪勢な結婚式を望んでいないけど、綾元家の顔もあるだろうし、泉李くんが選んだ方がいいと思うんだけど…」 「僕もそんなに豪勢なものじゃなくてもいいけど、羽菜の言う通り、綾元家の顔があるからある程度、大きな結婚式にしなければならないとは思う。 ここからピックアップして、細かい所は2人で選ぼう。あとはウェディングドレス、羽菜が好きなのを選んでいいよ」 泉李はウェディングドレスが沢山載ったパンフレットを分けて、羽菜に渡す。 「それは、とっても可愛い羽菜が見たいからね、楽しみにしてるよ。あ、お色直しも好きなだけしたらいい。素敵な君が沢山見たいし」 「すごい束だね。私は背が低いから、そんな感じでも似合う可愛いのにしたいな。そうだ、ダイエットしないと」 「そんなことしなくても太ってはいないよ」 羽菜はパンフレットを抱き抱えながら肩をすくませる。 「パツパツのドレスをきた花嫁さんなんて嫌でしょ?少しでも綺麗に見せたいよ。あーあ、泉李のお母さんなんて、とっても綺麗だっただろうね。今でもあんなに綺麗なんだもの」 泉李はため息をはく。 「どんな羽菜でも、僕が好きなんだから、いいんだよ。きっと、可愛い花嫁さんを見ることが出来る」 薄く笑う泉李に、心をぎゅっと温かくされた気がした。パンフレットを置くと、羽菜は泉李に抱きつく。 「泉李、大好き。ずっとずっと大好き」 「僕もだ」 泉李は羽菜の背中に腕を回すと、強く抱きしめる。 そして、細い首筋にキスを落とす。 「今日は僕の部屋で寝ない?一緒に」 「ダメだよ、明日一番に会議があるし。泉李も確か、どこか行くはずだったよね?」 「……あぁ、彩来に」 羽菜は泉李から、バッと離れた。 「あそこの旅館遠いじゃない!?早く寝て?あぁ、お風呂入った?さっさとしないと、明日疲れちゃうよ?」 羽菜はパンフレットを再び抱えると、扉に向かう。 「じゃあ、また明日ね、おやすみなさい!」 彼女は急いで帰ってしまった。 それにしても、まさか、羽菜がこんなに仕事が出来て、人を動かす才能があるとは思っていなかった。今では、とても頼れる存在だ。 しかし、忙しさのあまり、甘いひとときを過ごせていない。 泉李自身も多忙だし、仕方ないと割り切れるけれど。 「新婚旅行では、沢山のんびりして、羽菜を離さないでやる」 ブツブツと独り言を言う泉李。 簡単にシャワーで済まし、ベッドで布団にくるまった。そして、泉李と羽菜の夜はふけてゆく。
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