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「……ありがとう」
瑠璃は嬉しそうに微笑んだ。
「体壊しちゃやだよ?無理しないで、私や泉李を頼ってね」
本当の母親が体を壊して亡くなったことで羽菜が傷ついていた事を瑠璃は思い出す。
「私はあなたが思っている以上にタフよ。大丈夫。
羽菜こそ仕事が早いのは知っているし、周りに頼りにされているのは知っているけど、体を大事にしてちょうだいよ。それこそ、心配だわ」
「私もタフだよ。仕事もやりがいがあるし、私を幸せにしてくれる家族が周りにいるから、楽しくて、体調壊してる暇なんてないから。ね、お母さん」
「フフフ、そうね」
***
羽菜が部屋に戻ると、泉李はベッドで横になっていた。
「ん…戻ったか、羽菜」
「あ、ごめん、起こした?」
「や、目を閉じてただけだ。明日は母さんは帰るけど、僕たちは明日はオフだ。どこかへ出かけようかと思って考えてた」
羽菜は、隣のベッドに座る。
「泉李のおすすめがあるの?」
「そうだなぁ、大きな水族館が近くにあるみたいだし、現地ならではのお土産や、食べ物なんかが売ってる商店街もあるようだけど」
「水族館、行きたい行きたい!現地の料理も食べてみたいし!」
羽菜はベッドを座ったままバウンドさせて喜んだ。
「じゃあ、朝ゆっくり起きてから用意しようか」
「うん、じゃ、今日はゆっくり休もっか!」
2人は電気を消して、抱きしめあい、そして眠った。
口には出さなかったが、2人とも心の中で幸せだと思いつつ、眠りに落ちていった。
***
次の日、先に帰る瑠璃と挨拶を交わし、泉李と羽菜は水族館へ出かけた。
大きな水槽で泳ぐ色んな種類の魚たち、まるで海の中に自分もいるような気分になり、圧倒される。そして、美しい。
「綺麗だよね……群れになって泳ぐ小魚がキラキラしてる。あの中の1匹は私だわ。みんなと一緒に泳ぐの楽しそう」
「違うよ、羽菜はどちらかといえば、真上のジンベイザメだね。僕たち一家の主人公的存在。羽菜の登場は大きかった。母さんなんか、僕より羽菜羽菜って。
仕事でも、羽菜の協力あっての事も多いし、あの大きなジンベイザメだよ」
「よく言うわ。恥ずかしいからやめてよ」
「見た目は小さいけどな」
泉李はフフッと笑った。
「じゃあ、泉李はクラゲかな」
クラゲが展示してあるコーナーを指差した。
淡い電飾で色んな色に照らされ、透明な体をふわふわさせて、色鮮やかに輝いている。
「くらげって、ぷかぷか浮かんで無表情な感じでしょ?初めて泉李を見た時は、なにを考えているのか分からない、そんな印象だったし、でも仲良くなったら、綺麗で、優しくて、でも、仕事や勉強はしてるのに、余裕があるのか、やっぱりそこがフワフワして見えるのね。……前に話してた…金魚じゃない」
「羽菜といられるなら、ま、金魚鉢の金魚たちでもいいけどな」
泉李は羽菜の肩を抱く。
フフフと笑い、もたれかかるように羽菜は頭を寄せた。
「ずっと、一緒にいようね」
「うん、ずっとだ」
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