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おまけに、泉李は眉目秀麗という言葉が当てはまる美男子だ。
長身で、黒い髪をラフに後ろに流し、ノンフレームの眼鏡の中に、切れ長の目元が涼しい。
高校生にしてはクール、常に余裕ある雰囲気で、成績も良く、余計に泉李は大人びて見えた。
徳原学園でも、彼のファンは多いが、他校の生徒でも泉李の容姿は有名で、まずは是非とも知り合いになりたいとラブレターを渡そうと校門近くで待っている女子も多かった。
徳原学園と前田高校は割と近い。最寄駅も同じで、自転車で10分走れば、お互いの高校に着く。
だから、羽菜も、有名人の泉李の事は知っていた。
自分には縁のない、初めから手の届かない人なんだと。
その環境を羨ましいと思うだけで、恋愛感情には至らなかった。
今置かれている自分の立場が精一杯で、母を助けなければ、そう思っていた。
でも、学校は楽しいし、バイトも楽しく出来ている。
貧乏だけど、足りないものなんてない。
羽菜の生活は「楽しい」でいっぱいだった。
逆に泉李は、羽菜の事など知る由もない。
そんな関係の2人は、泉李の父親の何気なく話した遺言状の話から、出会うきっかけが生まれる。
===
「え?僕に許嫁がいる?」
「まぁ、そんな、大そうなものじゃないよ。ひいお爺様とご友人が半分冗談で書かれた約束さ。とても仲が良かったらしい。両家の縁を繋ぐ為に、できれば、結婚してほしいとね」
「……」
「泉李、いやいや、そんな考え込む事はない。そもそも、仲の良かったその小神野家は、とうの昔に没落してしまった。お前が気にする事はないんだよ。今どうしているかも全く分からないし」
泉李は亡くなった祖父母を思い出していた。
更にそのまた親。
祖父母はとても優しく、泉李を大切にしてくれた。
優しくとも、躾もきちんとされた。
今思うと感謝しかない。
きっと、曽祖父曽祖母共にいい親だったのだろうと泉李は思う。
その有難い先祖が言い残した自分への遺言を、気にする事ないと言われても、気になる。
……探してみるか。
とりあえず、だ。
泉李は、小神野家がどうなっているのか、自分で調べる事にした。
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