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羽菜は、泉李たちが店を出ても、まだクーポンを配り続けていた。
彼女の前を通り過ぎると、「ありがとうございました!」と笑顔で軽く頭を下げてくれる。
一旦店から20メートルほど離れたが、泉李は再び羽菜のところへ戻った。
北斗が「忘れ物かぁ?」とそこで立ち止まる。
羽菜は戻ってきた泉李を見上げた。
「何かお困りですか?」
ニッコリと微笑んで見上げる羽菜に、泉李は一瞬何を話せばいいのか分からなくて、「あ…」と言葉を詰まらせる。
何故僕はわざわざ戻った?
「あ、クーポンをもう一枚ください」
「どうぞ!またお越しください」
泉李は丁寧に頭を下げる羽菜を背にし、北斗の元へ足速に戻った。
肩をすくめ「何なんだよ」と北斗はぼやく。
今日はいつもと違うとばかりに面倒くさそうにため息を吐いた。
泉李は、北斗には、許嫁の話をしてもいいかなと、ふと思ったが……
やめた。
絶対はしゃぐに決まっている。
「今度またこれを使ってバーガーを食べに行こう」
泉李はクーポンをぴらぴらと振った後、カバンにポイと入れた。
「まぁ、付き合うけどさ、今日はちょっと、なんか変だな、お前」
千里は切長の目を更に細くし、北斗を見る。
「いや、いつもと同じさ。変わらない」
北斗は口をへの字に曲げて、やれやれと言うように、肩を持ち上げる。
それから大きな瞳で泉李を睨むと「俺に隠し事はなしだからな!」と顔をぐいと近づけて鼻をフンと鳴らした。
「分かってるさ、僕はいつもと変わらない。さっきも言ったが、僕はまだ高2だ。たまにはおかしな行動を取ることもあるさ。まぁ、そんな変わった事をしたつもりもないけどな」
千里は眼鏡をクイと持ち上げて、北斗を置き、スタスタと歩き出す。
「なんだよっ!」
追いかけてきた北斗の文句も聞こえないフリをして、歩く。
もうすぐ陽が完全に落ちる。
薄い紫色の空を見上げ、泉李はあの女の子の事を調べてみようと思った。
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