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彼女の名前は、小神野羽菜。
前田高校2年生。
自分と同い年。
ちんちくりんで、年下かと思ったのに。
……住所は高校の近くだ。
やはり曽祖父母の知り合いの小神野で間違いなかった。
しかし、没落したと聞いてはいたが……
写真を見ると、かなり古いアパートで暮らしている。
こう言ってはなんだが、金持ちそうには見えない。
彼女の母親は近所のスーパーでパートしている。
……父親はいない。
泉李は、羽菜についての詳細がまとめられた紙を見ていた。
資料のようになる程、沢山の事は書いていない。
彼女が曽祖父母に関係する小神野だと分かれば、それで良かった。
アパートの2階の錆びついた階段から下りてくる母親と、バーガーのクーポンを配っていたあの羽菜が同じ階段を上る写真。
あと、母親がドアを開けて、羽菜が生ゴミを外に持っていく様子が撮られたものがある。
2人はどちらも笑顔で、楽しそうだ。
……親子関係はいいようだな。
僕の親子関係よりかずっと、幸せそうに見える。
いや、僕の両親が悪いわけではない。
ウチは笑い合うような事がない。
笑いあった事など、小さい頃にクリスマスのパーティーを親戚を集めてした時くらいだ。
北斗も誘った。
多分。その時は楽しかった。
両親も笑っていた。
ただ、その時の笑顔も、もしかしたら作られた他所行きの笑顔だったかも知れないけれど。
泉李は小神野の資料を封筒に入れると机にポイと置く。
「ありがとう、吉住」
「いいえ、坊ちゃんからこういう事をお願いされるのは初めてですね」
吉住は、泉李の屋敷の執事であったが、泉李の幼い頃のから面倒を見る女中のお加代とはまた違った、男の理解者であった。
泉李とは違う目鼻立ちのハッキリした整った顔で、2人だけの時はまるで歳の離れた兄弟のようだ。
仕事は出来るが、住吉は自由な印象があった。
飄々としている。
「まぁ、普通誰かれ調べる真似なんてしないしな。
曽祖父たちの遺言の女性が気になるだけだ」
「女性に無関心だった、坊ちゃんにとうとう春が来たと言うことですね」
冷やかす吉住に対し、泉李はジロリと眼鏡の中の目を細くした。
「バカを言うな、恋愛経験というものならした事がある」
「モテるくせに、無関心だ」
住吉がカカカと笑ったせいで、ワックスでバックに固められた黒髪がまとまって揺れた。
濃いグレーのかっちりときまったスーツが泉李に近づいた。
「遺言の約束を守れとは勿論言いませんがね、可愛くて素直な子でしたよ」
泉李の目が見開かれる。
「もしかして、話したのか!?」
「えぇ、えぇ、勿論。綾元の御子息の気になるお人だ。どんな女性なのか調べる必要がある」
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