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2.屋上
「どうして、昨日のうちに言わなかったんだよ?」
翌日、秋晴れの暖かい日差しの下、私は屋上で先生と向かい合っている。自転車のサドルが盗まれました。そう言うと、先生は呆れたふうにそう言った。
まあ、たしかに。
「忘れてました」
「日奈らしいな」と先生は笑う。「やっぱり、家に忘れてきたんじゃないのか?」
「サドルですよ? さすがに忘れませんよ」
「鍵は付けてなかったのか?」
「鍵?」
「サドルを盗まれないように、チェーンをかけてなかったのか?」
「サドルにはかけてません」
「そっか。じゃあ、諦めるしかないな」
先生はそう言うと、ゴロンと屋上に寝っ転がった。
授業のない時間や放課後に、本当なら入ってはいけない屋上で昼寝をしていることを、私は知っている。かく言う私も、みぃちゃんが引っ越してくるまで友だちがいなかったから、屋上にこっそり入り込んでいて、ここで弁当を食べたり、本を読んだりしていた。
だから先生とは、屋上の秘密を共有している共犯者ってわけ。
先生は手作りの大きなきんちゃく袋を枕にしている。既製品の枕じゃないのは、中身をいろいろ変えて、ジャストフィットするものを探したいかららしい。
「犯人探しなんかやめとけよ」
すでに目を瞑り、お昼寝体勢に入った先生が言う。
「しませんよ、そんなこと」
「そっか。でももし、犯人を見つけたらどうする?」
「かかと落としですね」
おー怖。先生は大げさに身震いするようなしぐさをして笑い、私も釣られて笑った。
「で、お前、今日はどうやって学校まで来たんだ? あ、みなみに乗っけてもらったのか?」
「違います」
「二人乗りはダメだぞー」
「だから、違いますって。お姉ちゃんの使ってない自転車から、サドル借りました」
「盗ったのか」
「借りたんです」
「じゃあ、サドルだけ借りずに、自転車そのものを借りればよかったんじゃないか?」
あー、たしかに。私、サドル泥棒になる必要なんかなかった――。
「ミイラ取りがミイラになるって、こういうことを言うんですか?」
「ちょっと違うかな」
その答えを最後に、先生は寝息を立て始めた。
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