元委員長は不良を憂う

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元委員長は不良を憂う

 近寄り難い雰囲気のヤンキー。それがそいつの第一印象だった。  俺の通っている高校は、このあたりの地域ではそれなりに偏差値の高い方に属するいわゆる進学校と言われる私立高校で、進学校がゆえに授業はやや難しいものの勉強以外のことに関してはそれぞれの自己判断に任せるというスタンスの、校則の緩い学校だった。  良く言えば生徒の自立を重んじる、悪く言えばやや放任主義なその学校では、髪の色を茶髪やら金髪やらに染めていたり、凝った髪型にしている生徒も多い。それでもきちんと勉強さえしていれば特にお咎めなしなのだから、がちがちの校則に縛られた公立中学から進学してきた当初はカルチャーショックを受け、ヤンキーだらけの不良高校じゃないかと驚いたものだ。もちろん入学してしばらく経った今となっては、彼らも自分と同じように学業に打ち込み、真面目に受験勉強をして試験に勝ち抜いてきた同志たちなのだと理解できるようになったけれども。  ただそんな中でただ一人、同じクラスの中に見た目通りの不良がいるらしいことに気付いたのは少し前のことだ。  三池ひなた。なんだか可愛らしい名前とは裏腹に髪を金に染め、だぼだぼのズボン、着崩した学ランの下に白いパーカーを着込んだそれなりに目立つ外見で、そのくせ授業中に不在のことが多い。屋上でパーカーのフードをすっぽりかぶって一人で寝そべっていたとの目撃情報もあって、どうやら頻繁に授業を抜け出してはサボっているらしい、振舞いは立派な不良学生のそれだった。珍しく教室にいる時に観察してみても誰かとつるんでいる様子はなく、教室の隅の自分の席でいつも一人で眠そうにしていて、たまに誰かが声をかけてみても目を合わせることもなく反応はそっけない。そんな態度であるからクラスメイトたちも彼に構うことが無くなって、本人にも孤立しているという意識があるのかどうか――もしかするとそんなことを気にもしていなかったのかもしれないが、すぐに授業を抜け出してサボってしまうので人目に触れることも少なく、彼がいつもひとりであるということに気付いたのはどうやら俺だけであったようだ。  俺はべつに正義感にあふれているとか友達をたくさん作りたいコミュニケーションの塊だとかいうわけではなく、どちらかといえば地味で大人しい分類に入る。しかしかつてはガリ勉と言われるくらいには勉強以外に趣味もなく、押し付けられるままにクラス委員長をやらされていた中学時代だったので、ついついその名残で、クラスの規律を乱しかねない者の存在は放っておけなかったのだ。 「三池くん」  昼休み、教室の隅の席で机に伏せるようにしてうとうとしていた彼に声を掛けてみたのは、なかば気まぐれのようなものであった。もう少しみんなと仲良くすれば。もう少し真面目に授業を受けたら。どれもこれも、不良の機嫌を損ねそうな言葉ばかりで、浮かんでは消えていく。悩みに悩んだ末、絞り出した言葉は。 「お昼、たまには一緒に食べないか?」  であった。 「……は? なんで……?」 「ですよね……」  話したこともないような相手からの突然のランチの誘い。怪訝な顔をするのも御尤もである。誤魔化すように笑顔で謝って、その誘いはなかったことにした。 ――それが、一週間ほど前のこと。
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