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俺だけの王子様
俺たちはわざと待ち合わせをした。
その方がデートらしいと小嶋に強く言われたからだ。
仕事が終わるのが俺の方が少し遅くなってしまった。
雪もちらほら降り始めたので急いで待ち合わせ場所に向かった。
イルミネーションに彩られた噴水の前、小嶋が立っていた。
沢山の光が噴水とコラボしてキラキラと輝いている。
ただ立っているだけなのに童話の世界の王子様のようで、
俺はうっかりみとれてしまった。
そのまま動けないでいると、小嶋は俺を見つけ零れるような笑顔を見せ近寄って来た。
「寒くなかったか?」
「―――小嶋の方が寒かっただろう?待たせてごめん」
「大丈夫だって。あーごめんっていうならさ」
そう言って俺の両手を自分の頬を包むように持っていった。
「ちょ…っ」
焦って手を引こうとするがしっかり握られていて引く事はできなかった。
「あったかい」
そう言って小嶋が笑うから、俺の心臓はドキドキ鳴りっぱなしだ。
「秋山、少し歩かないか?」
「あ、うん」
小嶋は片方だけ俺の手を解放し、もう片方は恋人繋ぎをして自分のコートのポケットにつっこんだ。
「ちょっ小嶋??」
裏返る声。小嶋の行動が恋人にするそれのように甘くて、嘘のデートだって分かってるけど勘違いしてしまいそうになる…。
「今日はデートだ。いいだろう?」
そう言って覗き込む小嶋の顔が懇願しているようで、頬が熱くなった。
「―――あぁ…」
小さく呟いて俯いたまま二人で歩き出した。
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