忘れ物は片方だけの手袋

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忘れ物は片方だけの手袋

なんとか家に帰りついて、がない事に気が付いた。 さ――っと全身の血の気が引くのが分かった。 俺には妹がいた。よく笑う明るい子だった。 時々けんかもしたけど、妹の事は大好きだった。 だけど、8年前のあの日、事故で亡くなってしまった。 当時俺は16歳で、妹の(もも)は14歳だった。 あの日はもうすぐクリスマスという頃で、朝から雪が降っていた。 ちょっとしたおつかいでコンビニに行った帰りだった。 スリップしたバイクにはねられてしまったのだ。 「大丈夫。ちょっとそこまでだから行ってくるね」 そう言って笑った桃の顔が今でも鮮明に思い出せる。 俺が行けばよかった。 俺が……。 何度もなんども自分を責めた。 何もやる気がおきなくて悲しみに溺れそうになっているのに一粒の涙も出やしない。 そんな時、両親から渡された綺麗に包装されたプレゼント。 包みを開けてみると、桃が俺の為に編んでくれた手編みの手袋だった。 俺への今年のクリスマスプレゼントだったらしい。 編み目もばらばらで不格好だったけれど、俺は妹が亡くなって初めて声を上げて泣いた。 両親と三人で泣いてないて。 そして段々日常を取り戻していった。 桃からの最後のプレゼントは、俺にはとても温かくて世界で一番の宝物になった。 大切なたいせつな宝物。 ずっと使っていたからくたびれてきていたし、今では大きく成長してしまった手は入らない。 だけど側に持っていたくて、いつもポケットに忍ばせていた。 ずっと大事に持っていたのに…なんで……。 片方の手袋を握った手が震える。 確かにコートのポケットに入れておいたはずなのに片方しかないのだ。 俺は急いでタクシー会社に問い合わせたが、調べて折り返しきた返事は「車内にはなかった」というものだった。 昨夜飲んだ居酒屋にも連絡を入れてみたがそこにもなかった。 居酒屋に入るまでは確かにあった。そしてコートのポケットに入れてあったところまでははっきりと覚えている。 だとすれば…一番可能性が高いのは……昨夜泊まったラブホテル…。 今逃げてきたのに戻る事はできない。 まだ小嶋が部屋にいるかもしれないし、ばったり鉢合わせとかごめんだ。 だけどあれは桃が俺の為に編んでくれた大切な物で……。 はぁ………。どうしよう…。
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