忘れ物は片方だけの手袋

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結局俺は昼まで待って、ラブホに行くことにした。 流石にもう帰っただろう。 ラブホに着くときょろきょろと辺りを伺い人がいない事を確認した。 幸い誰もいなかったので、ほっと安堵のため息をつく。 たとえ知らない人でも、こういう場所でばったり出会ってしまうのは恥ずかしかった。 ドキドキと煩く騒ぐ胸をコートの上から抑え、こそこそと移動し受付にたどり着いた。 「あの、すみません」 声をかけると奥からのっそりと男が顔を出した。 ちょっとだけ腰が引けたが、何とか踏ん張って尋ねる。 「多分…502号室だった、と思うんですが…手袋の忘れ物、無かったですか?」 「忘れ物ですか、えーとちょっと待ってくださいねー」 手袋ここにあってくれ! そう祈りながら男の後ろ姿をみつめた。 だけど、そんな祈りも虚しく手袋の忘れ物はなかったと言われた。 呆然として辺りを警戒する事なく、ふらふらとラブホから出ようとした時、背後から声をかけられた。 「あれ?秋山?」 びくっと肩が震えた。 振り向かなくてもわかる。声の主は小嶋だ。 「秋山ここに泊まったんだ?」 「えっと‥小嶋、?」 「そうみたい。俺飲みすぎちゃって昨日の記憶が途中からないんだけどとここに泊まったみたいなんだよね」 小嶋は昨夜の俺との事、覚えてない? 小嶋が覚えていない事にホッとした反面残念に思う自分もいた。 「秋山は?」 「お、俺もそうなんだ。酔っ払っちゃって家に帰れそうになくてさ、泊まっちゃった。はは」 「一人で?」 小嶋の質問にぎくりとなる。 小嶋と泊まった事はバレちゃいけないけど、他の誰かと泊まったと思われるのも嫌だ。 「そ、そう。俺なんかモテないし一人だよ。当たり前だろう?」 「秋山自分で言うほどモテなくもないと思うけど?」 他意はないのだろういたって普通の表情でそう言われた。 「そ、そうか?我社一のモテ王子に言われたらたとえお世辞でも嬉しいな」 色んな気持ちを誤魔化すようにへらりと笑って見せた。 「本当なのに」 まだぶつぶつ言っていたが俺はふと視線を向けた先にを見つけてしまった。 あった! 「ん?」 俺の視線に気がついた小嶋は手袋をそっと差し出し俺に見せた。 「あのさ、恥ずかしい話昨日の相手がわからないんだよね」 だよな。そうじゃなければ今こんな風に喋ってないよな。 「誰かは分からないんだけど、だけどさ、俺その子のことすごく好きって思ったのは覚えてるんだ」 頬を染め恥ずかしそうに語られる内容に俺は自分の耳を疑った。 え?俺の事が、す、き? 今小嶋はそう言ったのか? ぶわりと顔が真っ赤になる。 「同じ会社の子だとは思うんだけど、目が覚めたらいなくてさ、これが落ちてたんだ。これってさまるでシンデレラみたいじゃないか?俺、絶対この手袋の持ち主探し出して告白するんだ」 小嶋は照れ笑いをしながらそう言った。 俺はハンマーで頭をガツンと叩かれた気がした。 小嶋が好きなのは手袋の持ち主のだ。 俺じゃない。 分かってた事だった。 小嶋はノンケだ。昨夜の相手が男だなんて少しも思ってもいない。 分かっていた事とはいえはっきりと突きつけられて、俺は絶望のどん底に突き落とされた気がした。 人ってショックが大きいと涙も出ないんだな。 そんな事をぼんやりと思った。
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