この手袋は誰の物?

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「あら、なぁに?男同士でこそこそと何の話してるの?」 我社のマドンナ川崎奈々子(かわさきななこ)だった。 整った顔立ち、グラマラスなボディ、我社の男性社員の憧れの的だった。 「川崎さん」 「それ……」 川崎の視線は小嶋が持っていた手袋に向けられていた。 「もしかして、これ川崎さんの?」 「え?」 一瞬だけびっくりした顔をしてすぐに笑顔でこくりと頷く川崎。 「そうなの。どこにあったの?探してたのよ。小嶋君がみつけてくれたの?」 え…? 待って…。 いやだ。それは俺の……っ。 目の前で川崎の手が手袋に伸びる。 触らないで……! 俺は後先考えず小嶋の手からうばいとっていた。 「え?」 びっくりする二人。 二人の視線が痛い。震える身体。 「ごめ…。これ…妹の、かも…」 「―――なんだ。そう言ってくれたらよかったのに」 「確信が、持てなくて…。ほら…ここにAってイニシャルが入ってるだろう?」 本当はY.A。Yukari Akiyama。年月が経ちYの文字は取れてなくなってしまった。 「へぇ秋山って妹いたんだな」 「あぁ」 「あれ?じゃあ川崎さんのじゃなかったんだ?」 「え、あ、そうみたいね。見間違えちゃったみたい。どこにいったのかしらー」 焦って誤魔化すように笑う川崎。 これをきっかけに小嶋と仲良くなろうとしたのだろう。 「俺も気がけておくね。早く出てくるといいけど」 「えぇ。ありがとう。じゃあ私は行くわ」 バツの悪そうな顔をしてそそくさとその場を去って行った。 「―――――なぁ。そしたら、さ。あれって秋山の…妹…?」 「え……」 どうしよう。何て答えよう…。他人に触れられたくなくてとっさに妹の物だって言ってしまったけど、その問題があったんだった。 ぎゅっと手袋を抱きしめる。 だらだらと嫌な汗が背中を伝い落ちた。 「…そろ……観念……、のに…」 ぽそりと聞こえたそんな言葉。はっきりとは聞こえなくて首を傾げる。 「今度妹に会わせてよ」 「―――だ…だめだ」 「どうして…?」 「………」 言えるわけがない。妹はもういない事。あの日のシンデレラは俺だった事。 押し黙る俺。 「じゃあ、さ。秋山が俺とデートしてよ。それで合格できたら妹を紹介して?」 片目をつぶりにっこりと微笑む小嶋。 本当王子様みたい。 「―――――わかった」 そう答える事しか俺にはできなかった。 笑顔の小嶋を横目に俺は小さく溜め息をついた。
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