97人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
しばらく歩いているとすれ違う人も段々少なくなっていった。
人の流れと反対方向に向かっているのだろう。
雪がちらちらと降っていて寒いはずなのに、小嶋と二人歩いていると色々な事は忘れて、ただ温かいと感じていた。いつまでもこうして歩いていたい。
やっぱり小嶋の事が…好き……。
「あのさ、俺――――!」
小嶋は何かを言おうとして俺の背後に目をやって息を飲んだ。
気になり振り返ろうとして小嶋に抱き込まれ横に二人一緒に転がった。
え?何?!
キキキキキ―――!!!というタイヤのスリップ音の後、ガシャン!何かが壊れる大きな音がした。
音のする方を確認すると、俺の目に入って来たのは転倒したバイクだった。
ドキドキドキドキ。
心臓が煩い。
息もうまくできなくなる。
雪。
バイク。
スリップ。
「秋山!息をするんだ!」
「ひゅっ…」
喉が鳴るだけで息ができない。青ざめていく顔色。
「紫っ!」
小嶋の唇が俺の唇と重なり息を吹き込まれる。
そしてあやすように舌で俺の舌を撫でる。
驚き、やっと息ができるようになった。
「大丈夫だ。紫、俺がいる。大丈夫だから」
俺を見つめる真剣な眼差し。
繰り返される触れるだけのキス。
抱きしめた手が背中を優しくさすってくれる。
「こ…じま……」
小嶋の優しい手に、ぬくもりに安心して、涙があとからあとから溢れて止まらなかった。
バイクのスリップ事故だった。
幸い俺はバイクがこっちにつっこんでくるのを小嶋が気付き横に飛んで守ってくれたから妹の事を思い出しパニクってしまったが、ケガもなく無事だ。
勿論小嶋も無事だ。
バイクは破損が激しかったがバイクの運転手は奇跡的にかすり傷ですんだそうだ。
誰もひどいけがもする事なく本当によかった。
警察が来て話を聞かれている間も小嶋は俺と手を繋いでくれていた。
最初のコメントを投稿しよう!