1『遅れて来た瞳』

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

1『遅れて来た瞳』

連載戯曲 改訂版 エピソード 二十四の瞳・1『遅れて来た瞳』    時   現代  所   東京の西郊  登場人物  瞳   松山高校常勤講師  由香  山手高校教諭  美保  松山高校一年生  東京、郊外の公園。枯葉がチラホラ舞い落ちるベンチの傍らに、由香がプレゼントの包みを抱えて所在なげに佇んでいる。ややあって、下手から瞳が折りたたみ自転車のブレーキの音をきしませながら飛び込んできて、上手の端で、ようやく停まる。 瞳:  キャーーーーーーーーーーーーー!(きしむブレーキ音) 由香: うわっ! 瞳: …………ごめん、待った? 由香: びっくりするじゃないよ! 待つのも待ったけど……。 瞳: ブレーキの効きが悪くってさ~、やっぱ中古のパチもんはだめだわ。  今日も明日も忙しいのなんのって……あ、それ、あたしへのバースデイプレゼント!? 由香: うん、一日早いけど。  残念ねえ、半日でも空いてりゃ、バースディパーティーしてあげるんだけど、  お互いスケジュール合わないから、恒例の忘年会と兼ねるということで。 瞳: ということは、忘年会はおごってもらえるんだあ! 由香: 何言ってんのよ。忘年会の会費は割り勘って決まりでしょ。 瞳: えーーー 由香: 気持ちよ気持ち。 瞳: なるほど、気持ちで済ませようって腹か。 由香: 何言ってんの、遅刻した上に自転車で轢き殺しかけといて。 瞳: だから、ごめんて、めんごめんご……。 由香: ま、ケーキの一つぐらいは用意させてもらうつもりだから。 瞳: イチゴとかデコレーションいっぱいのバースデイケーキ!? 由香: んなの食べたら、お料理食べられなくなっちゃうでしょ。プチケーキよプチケーキ。 瞳: プチケーキ……。 由香: なに不満そうな顔してんのよ。  だいたい二十五にもなろうって女がさ、女友達から、バースデイパーティーやらプレゼント期待する方が、みっとも……。 瞳: ん……? 由香: ……(アセアセ) 瞳: いま、「みっともない」って言いかけたよね……それが親友の言葉あ(泣き崩れる真似)  どうせ、あたしなんか、あたしなんか……ヨヨヨ……。 由香: 拗ねた女に明日なんてこないぞ。 瞳: 何言ってんのよ。あたしだって、ボーイフレンドの一人や二人目の前にして、バースデイパーティーくらい……。 由香: 見栄はらなくていい。 瞳: あったらいいなって……き、希望を持つのは青年の特権だぞ! 由香:言う割には腰ひけてんじゃん。 瞳:ひけてねーよ。 由香:ムキになんなよ、皴増えるよ。 瞳:皴なんかねー!(言いながらホッペの皴を伸ばす) 由香:お、こーやると高校時代の瞳だ!(瞳のこめかみをリフトアップする) 瞳:なにをーーー! あんただって、こうやらなきゃ昔に戻らないじゃん!(由香の胸をリフトアップ) 由香:じゃ、今度はヒップアップだ! 瞳:キャーー! お嫁に行けなくなるうううう!(ふざけ合う二人) 由香: やっと、学生時代のノリになってきたね。 瞳: じゃあ、そのノリで忘年会の費用ジャンケンで決めよう! 由香: おーし! 瞳: 最初はグー、ジャンケンポン!(瞳チョキ、由香パーで勝負)やりー! 由香: アチャー……しくじった。 瞳: 焼きが回ったわね。チョキの法則忘れるなんて。 由香: チョキの法則!? 瞳: そう、最初はグーで出したら、次はチョキかパーしか無いだろーが。  チョキを出しておけば、勝つか、あいこ。だから勝つ確率が一番高い。心理学で習ったじゃんよ。 由香: そういうことだけは覚えがいいんだよね。 瞳: なにさ、どうせ採用試験には関係ないわよ。 由香: ひがむなひがむな。でもさ、明日スケジュールが詰まっているって言うのは? 瞳: 文化祭の居残り当番。  本番二日前、生徒たちもやっと熱が入って、完全下校は八時はまわりそうね。 由香: なるほどねえ。 瞳: 彼氏がいたら、たとえ十時でも十二時でも、バースデイパーティーやってもらうわよ。 由香: 勝負パンツ穿いて? 瞳: アハハハ……て、ほんとだね。ま、ありがたく頂戴いたします(相撲の力士のように手刀を切る)
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!