7『……どういう意味?』

1/1

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

7『……どういう意味?』

連載戯曲 エピソード 二十四の瞳・7『……どういう意味?』        時  現代 所  東京の西郊 登場人物 瞳    松山高校常勤講師 由香  山手高校教諭 美保  松山高校一年生 由香: よし、今度は瞳の採用試験合格を祈って……! 瞳: それはいい。 由香: え? 瞳: あたし、もう辞めようと思ってんの。 由香: ……どういう意味? 瞳: 教師になるのやめようと思って……。 由香: なに言ってんのよ、らしくもない。たった三回試験に落ちたぐらいで。  たった今わたしを励ましてくれたところじゃないの! 自信を持とうよ、自信を! 瞳: 違うの。教師って仕事そのものに魅力を感じてない、感じなくなった。  写真見てつくづく思った。まあ、もともと車に乗るための金と時間欲しさのデモシカだけどね。  見ると聞くとで大違い、三年やって、場違いだってのがよくわかった。  さっきも言ったけど、教育は掛け算なんだよ。  ゼロやらマイナスの子たちばかり相手にして、空っぽの卵のカラだけいじくりまわしてると……  なにか、自分の持っている数字まで小さくなっていくような気がしてね。 由香: 考えすぎだよ、そんなのやってるうちになんとかなるって。 瞳: 由香は感覚が違うのよ。学校も、山手みたいな温泉学校にいるから。 由香: 瞳だって、試験に受かって正式採用になれば変わるわよ。 瞳: 夕方、グチこぼしてたのはだあれ? 由香: グチぐらい誰でもこぼすでしょ。みんなグチこぼして、なけなしの元気を絞り出してやってるんじゃない。 瞳: あたしのはグチじゃあないの。 由香: じゃ、なんなのよ? 瞳: 魂の慟哭……。 由香: ドーコク? 瞳: 聞こえない? あたしの心臓が血の涙流して泣いてんのを!?  由香: お酒も飲まないで、よくそんな台詞が出てくるね。 瞳: 言ったでしょ。由香とあたしは感覚が違うって……ちょっと、このチューハイ半分まで飲んでくれる? 由香: え……うん(半分飲む)これでいい? 瞳: この半分のチューハイを、由香はどう表現する? 由香: え……そうだなあ、まだ半分残ってる。 瞳: だろうね、由香は、のび太君みたいな性格だもんね。 由香: それって?  瞳: 依頼心は強いけど、憎めない楽観主義で、いつも人が助けてくれんの。 由香: それって……。 瞳: 誉め言葉のつもりだけど。だって、人柄が良くなきゃ、だれも助けてくれないよ。 由香: じゃ、瞳は? 瞳: もう半分しか残ってない……あたしの心もちょうどこのくらい。その残った半分の心が、もう決めちゃったのよ。 由香: 何を? 瞳: あたし、二学期いっぱいで辞めよって決めた。 由香: 辞めて……どうすんの? 瞳: この秋から、姉ちゃんがダンナといっしょに長野でペンション始めたの。  あたしもちょこっとだけ出資してんだけど、そこで働こうかと思って。  姉ちゃんも、アルバイト使うよりは、身内のほうが気楽だろうし。  ちょっぴり大きめのペンションだから、人手もけっこう大変なんだ。 由香: だけど……。 瞳: だーかーらー……夜の山道ぶっとばそうよ! 由香: えー、ローリング族とか出るんじゃないの? 瞳: 大丈夫よ、週末じゃないし。  そんな奴らが走らない道だし、制限速度は三十キロしかオーバーしないから。  そのために、あたしウーロン茶しか飲んでないんだよ。ね、山頂からの夜景は絶品だよ! 由香: いや、だけど……。 瞳: あたし車とってくるから。由香は、お勘定の方よろしくね(伝票を渡して去る) 由香: あ、ちょっと! 瞳い!  暗転
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加