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屋根裏部屋の秘密
おじいちゃんの家に妹たちを下ろすと、ダウンタウンの方まで車を走らせると、ルート66を少しだけ東に走った。大きい道路になると運転は楽だ。むしろダウンタウンは標識も複雑だし、角を曲がると観光客が歩いていたりして危ない。ルート66に出ると、僕たちは西日を背に受けて走り出した。窓を少しだけ開けると、初夏の草花と潮風の匂いが混じって気持ちいい。この季節のサンタモニカは大好きだ。
「ねえ、おじいちゃん。」
「なんや?」
僕は目線を前の道路に向けたまま、助手席のおじいちゃんに話しかけた。
「パパたちって、どうやって出会ったの?」
おじいちゃんは、少し言葉に詰まったようだ。
「アルバイト先で知り合ったって聞いとるけど、詳しくは父さんに聞いてみたらどうや。」
「・・・うん。」
このところ、パパたちと話すのが少し難しくなった。
「ねえ、パパとパパって仲良いのかな。」
「うん?そりゃあ結婚しとるんやけん、仲ええんと違うかなあ。」
僕は、落胆を見せないよう、なるべく平静を装った。僕が聞きたいのはそういうことじゃなかった。でも、そのことを改めて、わざわざ口に出す勇気も無かった。だからって、パパたち本人には余計聞けない。
パパたちの子どもとして生活していると、ごくたまにだけど、不安の影が自分の生活をよぎることがある。なんでパパとパパは結婚したのかなって。僕はずっとアメリカの学校で育ってきたから、六歳のころには性教育を受けてたし、まだ使ったことはないけど、学校の先生に言われて自分のコンドームだって持っている。僕も生物学上は、子どもを作れるようになった。だから当然分かっているけど、僕はパパたちから生まれたわけじゃない。パパのもとに来た時は、どうやって赤ちゃんができるのかなんて、理解していなかったけど、パパが生みの親でないことは分かっていた。どんなにパパに愛されていても、僕を産んだのはジャンキーのどうしようもないクズ親なんだ。本当にどちらかのパパから生まれたのだったらいいのに、と思うときがたくさんある。アニサは気づいているか分からないけど、リサともオマールともその話はしたことがある。リサはパパたちと同じ日本人だけど、オマールや僕と見た目が違うことを不思議がっていた時もあった。そのうち、アニサも疑問に思うことがあるだろう。彼らは、僕よりももっと小さいころに家族の一員となった。だから、物心ついたときから、パパが親だったわけだ。
僕たちはパパとパパから愛されてる。二人のパパのどっちかは毎日ご飯を作ってくれるし、小さいころは読み聞かせをして、寝かしつけてくれる。誕生日には拓也パパが必ず真っ白なチョコレートケーキを焼いてくれるし、週末にはサンタモニカピアでショッピングした後に遊園地に行くか、サンタモニカ山でピクニックする。少なくとも二年に一回は海外旅行をする。前の両親のことはほとんど覚えていないけれど、そんなことをしなかったことだけは断言できる。僕は、生まれてから四歳までの期間と、四歳から一七歳までの期間と二組の親に育てられたわけだけど、今のパパたちの方が本当の親だと思っている。僕たちは家族だってことを、自信を持って言える。だけど、僕たち六人は誰一人として血がつながっていない。最近、どうしてもそのことが気になってしまう。どんなに家族一緒に過ごしていても、理由もなく不安になって、落ち着かなくなってしまう。その不安が最近大きくなってきているような気がする。血のつながりが無い僕たちを繋ぎとめているものは一体何なのだろうって。僕は弟や妹たちの話を聞いたことは無いけど、オマールは、リサはどんな家庭の子だったんだろう。
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