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アレックス・三木
月終わりの金曜日には、僕はおばあちゃんの家に行くのが習慣だった。月末の週末には金曜日の午後から日曜日の夜まで、両親ともに仕事があって、どうしても僕ら四人の子どもの面倒を見られない。パパたちがいないのは寂しいけど、でも僕たち兄妹は毎月おじいちゃん家に行く小さな非日常を楽しみにしていた。
学校が終わってロッカールームからMOZのリュックサックを取り出し、おじいちゃんが黒のフォルクスワーゲンが待っている校門の前まで走っていく。拓也パパが車をプレゼントしようとしたとき、最初はカナリアイエローのランボルギーニにしようとしてたけど、僕たちが止めた。それでも、いまいましい黄色のスクールバスには乗らないですむけど。高校生にもなって、スクールバスに乗るなんてダサすぎる。その点、黒のフォルクスワーゲンは最高だ。アクション映画にでも出てきそうなボディと高級感溢れるエンブレム。同級生にも親のフォードやBMWを自慢げに乗り付けてくるけど、僕はこの車が大好きだ。車も好きだけど、それ以上にサングラスをしたおじいちゃんが窓を半分開けてハンドルに手を置き、鼻歌を歌っているおじいちゃんを見ると、なぜか安心するし、こんなにかっこいい車に乗ってるおじいちゃんはいないだろって優越感を感じる。
おじいちゃんの車では、ブルーハーツや中森明菜とか日本の懐メロがいつも流れている。僕は物心ついた時から聞いてるから、そらでも歌えるし、流行りのポップスを追いかけても、たまにJPOPに戻ってきてしまう。学校の友達には分かる人もいないから、あまり話さないけど、日本のロックだって、良いものがたくさんあるんだ。おじいちゃんはどうも僕に日本の歌とか文化を好きになってほしい、と考えている節がある。でも僕としては、それじゃ皆の話についていけなくなるから、アメリカの流行りもしっかりと押さえている。アメリカのポップに慣れてしまうと、日本の音楽のビートやリズムは少しダサく感じるけど、歌詞は案外良いものが多い。そもそも日本語を分かる友達なんていないから、日本のポップスについて語るなんてできやしないって分かるけど。おじいちゃんの車で日本の色んな音楽を知れたけど、共感できる人の少ない世界というのは時々寂しくなる。できればおじいちゃんにも僕の国の音楽を知ってほしい。
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