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高校生活は淡々と過ぎていった。
友人はいないものの周囲から疎まれることもない。いるかいないかわからない大人しいクラスメート。望み通りの立ち位置。
友人なんていらない。ひとりぼっちのままでいい。誰かに嫌な思いをさせた挙げ句に嫌われるくらいなら、ひとりのほうがずっとマシだ。
孤独だけれど平和な高校生活。それが卒業まで続くものだと思っていた。なのに――
窓際のいちばん前の席でどっと笑いが湧き上がる。
旭は机に落としていた視線を上げた。
「ちょっと龍生、あんたってほんとに馬鹿」
「馬鹿って言う人が馬鹿なんですー」
龍生と呼ばれた少年は行儀悪く片膝を立てて机に腰かけている。浮かんだ笑顔は屈託がない。
旭はその顔をそっとながめた。
鳥谷龍生(とりや りゅうせい)。旭のクラスメート。
整髪料でごく自然に整えられた髪。手足がすらりと長く、クラスの中ではバスケットボール部員に続く長身だ。紺のブレザーにダークグレーのスラックスというありふれた制服も、彼が身につけると様になって見える。
何よりも繊細でいて男らしく整った顔立ちが人の目を惹きつける。
旭は龍生のことを一年生のころから知っていた。一年のときは別のクラスだったが、龍生はただ廊下を歩いているだけでもとにかく目立つ。旭とは対照的な少年だ。
今も龍生を中心に女子男子問わず人が集まり、にぎやかな会話を繰り広げていた。
いいなあ……と心で呟く。
誰とでも気軽に会話のできる龍生が羨ましい。どうすれば彼みたいに人の心へあっさり入っていけるんだろう。
いちばん後ろの席からそっとながめていると、龍生が振り向いた弾みに視線が合った。
しまった。
慌ててうつむいたが、龍生が今まで浮かべていた笑みをさっと消して、かわりに意地の悪い笑みを浮かべたのを視界の端に見てしまった。
心臓がどくどくと鳴る。太腿の上の手が無意識に拳を作る。
机を見つめてじっとしていると、前の席ががたりと揺れる音がした。旭はそれでも顔を上げなかった。
「かーやのちゃん、おはよ」
すぐ近くから龍生の声が聞こえて心臓がびくっと竦み上がった。
「……お、おはよう」
「えー、なにー、聞こえないんですけどー」
笑みを含んだ声は明るいくせにどことなく意地の悪い響きがある。旭にだけ向けられる声。それに表情。
龍生に絡まれるようになったのは二学期が始まってすぐのことだ。
龍生が話しかけると他のクラスメートたちまで旭に視線を向けてくる。できるかぎり目立たないようにしていてもこれでは無意味だ。悪目立ちだけはしたくないのに。
どうして龍生が旭に絡んでくるようになったのか。
きっかけはわからない。一学期の間は旭がこっそり龍生を盗み見るくらいで、言葉を交わしたことすらなかった。それなのに。
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