君と僕の願い事

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「あの、ごめんね」 「ごめんってなにが?」 「初詣。クラスの子たちと約束してたって……」 「ああ、そのこと。茅野ちゃんが謝ることないっしょ。俺が勝手に断っただけなんだし」 「うん、でも……」  友人になったばかりの旭が龍生を独り占めしてしまっていいんだろうか。龍生と初詣にいきたかったのは歩だけではないはずだ。 「巻田さんにも悪いことしちゃったな……」  いまにも泣きそうな顔をしていた。自分があんな顔をさせてしまったのだと思うと胸が塞ぐ。 「なに言ってんの。悪いのはあいつでしょ。茅野ちゃんが気にすることないって」 「きっと鳥谷くんと初詣いくの楽しみにしてたんだよ。巻田さんが怒るの、当たり前だと思う」 「俺に腹を立てるのはしょうがないかもしんないけどさ、茅野ちゃんに八つ当たりするのはおかしいっしょ。茅野ちゃん、なんにも悪いことしてないじゃん」  旭自身がなにかをしたわけではないが、結果的に旭のせいで歩を哀しませてしまった。  相手が旭でなかったら、歩だってあんなにも腹を立てなかったはずだ。いや、そもそも旭でなかったら、先に約束をしていた友人たちも交えて初詣にいっていたはずだ。  旭だから。  友人のひとりもいない旭だから、龍生は気づかって友人たちとの約束を断り、旭ひとりを誘ったのだ。 「え、ちょっと茅野ちゃん、そんなへこまないでよー。新年だよ? 明るい顔してよー」  うつむいた旭をどう思ったのか、龍生は肩を揺さぶり、困り果てたように言った。旭は慌てて顔を上げると、下手くそな笑顔を作った。 「ごめんね……。あの、おれ、今年はがんばって友達作るから。他にも、勉強とかバイトとか色々がんばって、巻田さんに鳥谷くんの友達だって認めてもらうから」 「や、あゆのことなんかどうだっていいっしょ。あいつがどう思おうが、俺と茅野ちゃんの関係がなんか変わるわけじゃないじゃん。ま、がんばるのはいいことだけどさ」  にこりと微笑んで、旭の頭をくしゃりと撫でる。  龍生はときどきこうやって旭の頭を撫でてくる。撫でられるのは嫌じゃないが、茉莉の言った通り旭を弟あつかいしているのでは、と思ってしまう。確かに自分たちがこうして並んでいても同学年の友人には見えないかもしれないが。 「巻田さんって――」  鳥谷くんが好きなんだね、と言いかけて口を噤む。  歩の態度はあからさまだ。龍生だって気づいているだろうが、他人がおいそれと口出ししていいことではない。 「あゆがどうかした?」 「う、ううん。家、近いんだなって」 「ああ、うちからそう離れてないところに住んでるんだよ。だもんだから、幼稚園のときからずっと同じとこ通ってんだよね。あ、そろそろお賽銭出しといたほうがいいよ」  気がつけば人垣の向こうに拝殿が見えている。短い木の階段の上に賽銭箱があり、その上には大きな金色の鈴が吊り下げられていた。  ふたりは用意しておいた小銭を賽銭箱へ投げ入れると、鈴緒をつかんで大きな鈴をがらがらと鳴らした。手を叩き、頭を下げる。  今年も――今年は鳥谷くんと友達でいられますように。鳥谷くんの友達にふさわしい人間になれますように。鳥谷くんと同じクラスになれますように。他にも友達ができますように。背がもっと伸びますように。……弟か妹に会えますように。お父さんとお母さんとみんなが幸せでありますように。  旭は目を閉じて心の中で願い事を唱えた。まだなにか頼み忘れていることがあるような気がしたが、あまりにいくつも願い事をすると神様から欲が深いと呆れられてしまうかもしれない。  そう思って顔を上げると、龍生の面白そうな眼差しと視線が合った。
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