君と僕の願い事

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「……な、なに?」 「や、茅野ちゃん、すっげー真剣に長々と願い事してるから面白いっつーか、なんか可愛くって」  どうやら龍生はさっさと願い事を済ませて、ずっと旭をながめていたらしい。あれもこれもと真剣に神様に頼み事をしていた自分が子供じみて感じられて、旭は頬を赤くした。  それからふたりはお神籤を引き、学業のお守りをそれぞれ買ってから神社を後にした。 「茅野ちゃん、どんなお願いしたの?」  神社の近くは人の姿がちらほらあったが、角をひとつ曲がると通りは無人だった。 「え、あの、みんなが健康でありますようにって」  旭は誤魔化すように言った。まさか龍生に向かって、龍生と友達でいられますようにと願っただなんて言えるはずがない。 「それだけじゃないっしょ。すげえ長い間、祈ってたじゃん」 「あとは色々……。と、鳥谷くんは?」 「俺?」  訊ね返すと、龍生は意表を突かれたような顔になった。一瞬ためらうようすを見せたが、旭の目をじっと見つめながら口を開く。 「俺は、茅野ちゃんが憧れの人と仲良くなれますようにって」  旭は思いもがけない答えに瞬きした。そんなことは龍生にまったく関係ないはずなのに。いや、憧れの人は龍生なので無関係ではないのだが、龍生は気づいていないはずだ。気づいていれば神様に祈ったりするはずがない。  その願いはとっくに叶っているのだから。 「え、な、なんで……?」 「や、なんかずっと気になってたから」  ふたりは自然と立ち止まっていた。龍生はしばらくの間、旭の顔を探るように見つめていたが、 「寒いし、早く帰ろ」  ふいと顔を背けると、先に立って歩き始めた。  旭は首を傾げて龍生の背中を見つめたが、距離が開いているのに気づいて慌てて後を追った。  憧れの人に嫌われてしまったと話したのを覚えていたのかもしれない。覚えていてずっと気にしていてくれたのかもしれない。 「と、鳥谷くん……!」  振り返った顔はなぜだか少し傷ついているように見えた。 「あ、あの、もう大丈夫なんだ。あの、憧れの人」  龍生はぴくりと肩を揺らして立ち止まった。 「大丈夫って……?」 「な、仲良くなれたんだ」  よかったと言って微笑んでくれるものと思ったのに。なぜか龍生は表情を強張らせた。 「……なにそれ、いつの間に仲良くなったの」  旭は驚いて龍生の顔を見上げた。表情の意味がわからない。無駄な願いをしてしまったと腹を立てているんだろうか。 「え、あ、あの最近」  これを機会に憧れの人が誰なのか打ち明けるつもりだったが、とても言えそうな雰囲気じゃない。憧れの人が龍生だと知ったら、 「なんだよそれ」  と、怒り出しそうだ。 「最近って冬休み中に仲良くなったの? 学校の外で会ったりしたの?」 「う、うん。ごめんね、せっかくおれのために願い事してくれたのに……」 「そんなことどうでもいいよ」  言葉とは裏腹に龍生の表情は硬い。  龍生の顔を見ていたらだんだんと泣きたい気持ちになってくる。龍生にこんな顔をさせるならクリスマスイブの夜、正直に教えておけばよかった。  いつもこうだ。言葉が足りなくて人を傷つける。きっと父親も旭のこういう性格に嫌気が差したのだ。
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