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九、男と女
「誰だっ」
びくっと身体を強張らせたと同時に振り向いた彼女の視界に入ったのは一人の少年だった。暗くて顔が見えない。
「おれだよ、ヤエ。」
「その声は、タツか?」
聞き慣れたその声はタツのものだった。暗闇に目が慣れ、目の前の少年の顔の輪郭が徐々にはっきりしてくる。そしてその顔が彼そのものであると確信した時、ヤエはほっと心の中で一息ついたものの、新たな疑問が頭の中を駆け巡る。なぜ隣村の人間である彼がここにいるのか。
「どうして、隣村のお前がここにいるんだ。」
「ヤエの村の奴らを見てこいと長老様に言われたのさ。いつか襲われても、立ち向かえるようにって。」
ヤエは自分たちが一緒にいる事が許されない事であると思い出し、胸がぎゅっと縮んだように感じた。自分の村の人は誰一人欠けてはならないぐらい大切に思っている反面、大きな隠し事をしているという事実が彼女をより一層後ろめたくさせるのだ。
「ヤエは、なぜここに?」
タツが尋ねる。その顔は今のヤエとは正反対に喜びに満ち溢れていた。
「今日は村の祭りなんだ。大人になる儀式があると連れられてきたんだ。けど皆の後を追っていったら変な人の声がして…。」
「声?」
彼が怪訝な顔をして尋ねる。
「ああ。昔、夜に家で聞いた事のあるような、叫び声のように聞こえたんだ。」
それを聞いたタツは突然、ぴんとひらめいたような、合点がいったような顔をしたかと思うとまた少し顔をそらし、こう続けた。
「ヤエ、それはきっと、目合い(まぐあい)ってやつだ。」
よく見ると頬が紅色に染まっているのが暗い中でも分かった。彼女にはその言葉を聞いても意味が分からず、さらに頭の中が疑問でいっぱいになった。
「目合い?それは何なんだ?」
「ヤエ、それも知らされずに儀式に連れてこられたのか。」
タツが少し俯いた。ヤエが下から少し覗いてみると、彼が不機嫌そうな表情をしている事が分かった。そんな態度になりながらも、タツは続ける。
「赤んぼを作るんだ。」
「それが目合い?どうやって?」
それを聞いたタツは目を見開いてたじろぎつつも、やがて何かを決心したようにヤエの背後の地面を指さした。
「ちょっとそこに寝てみろ。」
「こうか?」
言われるがままに地面に仰向けになったヤエの上に、がばりとタツが覆いかぶさり、彼女は身動きが取れない状態になった。
「男と女の身体には、出ているところとかけているところがある。それは分かるな。」
「ああ。」
ヤエを抱きしめたまま、タツは言葉を続ける。あの声はいつの間にか止んでいた。
「足の間にあるものを、くっつけて一つになる。それだけだ。」
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