7人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
***
「アサトも猫派なんだってさ!保護猫飼ってるって言ってた。写真見せてくれたんだよー、黒いぶちぶちの白猫ちゃん!超可愛いの!」
「へえ、いいじゃんー」
マシンガンのごとく喋り続けるサナに、あたしは笑顔を作って答える。あのサイトを紹介してからまだ一ヶ月程度しか過ぎていないというのに、どうやらもう彼女はすっかり新しい彼氏に夢中であるようだ。勉強もサボって、時間がある時はずっと携帯をいじくってメールかLANEに勤しんでいるらしい。まるで恋愛の中毒者だ。楽しそうなのは結構なことだが。
「でさでさ、聞いてよ奈穂子!私、今度の土曜日ついに!アサトと初デートの約束しちゃいましてー!もう超楽しみなわけ!」
「おいおい、マジで会うの?そんな暇あるの?勉強は?」
「一日くらい息抜きしてもバチ当たらないってー!」
「サナの場合ここのところずっと息抜きしかしてないように見えるんだけどなぁ。滑り止めまで落ちても知らないからね?」
ご丁寧に忠告してやっているというのに、受かれているサナの耳には全然入っていないようだ。呆れた話である。この間のテストは今までで一番悪い点数を取ってしまって、本来ならばそれどころではなかったはずだというのに。
――ま、楽しそうだし。好きにすりゃいーけど。
ぶるる、とスマホのバイブが震える。あたしはスマホを見、届いたメールを確認した。送信者は、“垣田錬太郎”。件名には“ついさっき入金したよ!”の文字が。
『今度のカモもご紹介ありがとね!
やっぱ女子高生ってブランドは美味しいわー。
どんな風に俺好みに調教するかマジ楽しみー!この間の女と同じように、全身の穴がばがばにして垂れ流しモードにしてやってもいい?ていうか新しい穴やまほど空けるのも面白そうなんだけど、どーよ?』
あたしの友達であると伝えたはずなのに、相変わらずこの男ときたら欲望に忠実すぎて笑えてしまう。あたしはすぐに返信してやった。
『入金ありがと。好きにしていいよ』
友達ヅラされて、ずっと頼られて、付きまとわれて。本当は彼女にはずーっとうんざりしていたのだ。サナの方はあたしのことを本当に友達だと信じていたのかもしれないが、こっちからすると滑稽でいい迷惑なだけである。
そう、だからこれは迷惑料のようなもの。
縁を切るだけじゃなく、最後の最後で良いお金になってくれるなら一石二鳥というものだ。むしろ最後に良い夢を見せてやったあたしに感謝して欲しいくらいである。
――じゃーね、サナ。あんたの顔を見るのも多分今週限りだと思うと、ほんと清々するわ。
あんたも良かったじゃん、と。浮かれて頬を染めつつ、にやにやと喋り続けるサナを見て、心の中で呟くあたしである。
――永久就職ってやつう?おめでと。これでもう、受験なんかしなくていいし、勉強もしなくていいでしょ。あんたにとっては、最高の結末じゃない?
まさにウィンウィンの関係というやつではないか。
あたしはスマートフォンをしまって、彼女に笑いかけるのである。
「ほんと、あんたって馬鹿で可愛いよねー」
「む!馬鹿とはなんだ馬鹿とはー!」
「馬鹿を馬鹿と呼んでなーにがいけないっていうんだかー」
だってあんなチャチ寒いアングラ出会い系サイトに引っ掛かるんだもの、なんて。
きっと彼女が理解できるのは、引き返せなくなってからのことだろうけれど。
最初のコメントを投稿しよう!