《1》お届け物をするだけの簡単なお仕事のはずが

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《1》お届け物をするだけの簡単なお仕事のはずが

 一、二、三、四……ざっと十人ほどでしょうか。  私の眼前には今、いわゆるゴロツキと呼ばれる類の方々がおいでです。  こんな幼気な小娘を、大の大人が寄ってたかって囲うとは一体なにごとでしょうか。まぁ幼気とはいっても今年で十七歳になるんですけども。  いえ、彼らの目的は分かっているのです。腕にかけていた籐かごの取っ手を、そっともう片方の手に取り、私はそれを胸元に抱えるようにして持ち直しました。 「おう、嬢ちゃん……おとなしくその中身、渡してもらおうじゃねぇか」  ああ、ゴロツキです。喋り方の果てまで紛うことなきゴロツキ、うっかり噴き出してしまいそうになるくらいの清々しさに満ちた、これぞザ・ゴロツキでございます。  緩みかけた口元をなんとか堪えました。恐怖といえば恐怖ではありますが、ここまであからさまなゴロツキさん方が相手だと、いっそ小説かなにかのワンシーンみたいでむしろ面白く感じられてしまうんですよね。  まぁいいや、渡さないったら渡さないんだから。  籐かごの中には、この国随一の剣豪と名高いヒューイット様の元へお持ちすべき物が入っているのです。  ヒューイット様と我がお師匠さまは旧知の間柄であり、お師匠さまは今回、直々に頼まれごとをされたのだとか。  お師匠さまから仰せつかった大事なお役目です、ここで寄越せと脅されたからといって、すごすごとお渡しするわけにはいきません。お師匠さまの社会的信用に関わります。  籐かごには、柔らかな敷布に包まれた硝子製の瓶が一本。ヒューイット様がお使いになるお薬だと伺っています。  そう、我がお師匠さまは薬師なのです。そして、国一の剣士であるヒューイット様がお求めになるお薬といえば、思い当たる節はひとつしかありません。 「申し訳ありませんがそれはできません。そもそもこれは、あなたたちには必要のない物だと思います」 「ハッ、残念だがそれを決めるのは嬢ちゃんじゃねえんだよ」 「そうでしょうか。あなたたちは十分筋肉ムキムキですし、それ以上は不要だと思いますけど」 「あ?」 「これはお師匠さまがご依頼主のためにお作りした筋肉増強剤ですよ。あなたたち、そんなにムキムキな癖にまだ筋肉を増強したいんですか?」  私の問いかけに、なぜかゴロツキたちは一斉に変な顔をしました。  眉をひそめるゴロツキに鼻穴を広げるゴロツキ、口をぽかんと開けて呆然とするゴロツキ……なんでしょう、私、なにかおかしなことでも申し上げましたでしょうか。 「……なんか誤解してるみてえだが、まぁいい。おとなしく寄越してもらうぜぇ」 「駄目ですと先ほどからお伝えしておりますでしょう」 「んだとゴラァ!!」  ゴロツキらしい脅し方だと思ったものの、反射的に身体が強張ってしまいます。  この手の方々に絡まれるのは初めてではありませんが、今回は数が数です。以前は三名様でしたので、『アッ金髪のぼいんちゃん!!』などと後方を指さしながら叫び、皆さんがそちらを向かれた隙に走って逃げて事無きを得ましたが……今回はその手も通用しなそうです。囲まれておりますし。
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