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「あーあ。辞めちゃおっかな」
何気なく漏れた言葉だったけど、とんでもなくステキなことに思えた。
ぜんぶぜんぶいやになっちゃったなら、ぜんぶぜんぶ捨てちゃえばいいんだ。
見失ってしまったのなら、これから探しに行けばいい。わたしらしくいられる場所を。
なにか言いたげに口を開いた青木より先に話し始める。
「引き止めないでね。結果が出てないみじめなわたしに『辞めないで』って言うのは酷だよ?」
「先輩とか、所長には言った?」
「まだ。だって今思いついたんだもん」
晴れ晴れとしたわたしとは対照的に、青木は「そう」と言うと押し黙った。
「……軽蔑した?」
わたしが言うと、青木が驚いたように顔を上げる。
「誰を?」
「結果が出なくて、一年経たずに辞めたいって言うわたしのこと」
「まさか」
即座に否定される。
「優しいね」
「別に。笹西のこと好きだからさ、もっと輝ける場所があるなら、そっちに行った方が幸せなのかもなと思っただけ」
わたしはなにも言えなくて瞬きを繰り返した。わたしの顔を見た青木が慌てた様子で付け足す。
「もちろん恋愛的な意味じゃないよ」
わたしは一体どんな顔をしていたんだろう。
「大丈夫。わたしは青木くんのこと嫌いだったよ。初対面の時から」
「ショック」
「片想いだね。残念」
肩を落とす青木を見て、顔の筋肉が緩んだ。こんなに自然に笑えたのは久しぶりだった。
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