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食事を終えてから数時間後。
リョウは閉じていた目をぱちりと開いた。
横になりながらもずっと耳をそば立てていたが、足音や生活音といった気配が複数に重なることは一度もなかった。
きっとここに住んでいるのはセオとルイだけなのだ。
「今のうちに何か手を打っておかないと……」
足を引きずりながらステンレスの扉に近づく。
慎重にドアノブを回すと、リョウは初めて一人で部屋を抜け出した。
「さて、セオのことを調べなきゃ」
リョウに悪びれる素振りはない。
それどころかいつも無邪気な瞳には狡猾な光さえ浮かんでいた。
暗い廊下をヒタヒタと進みながらセオのことを思う。
一見ぶっきらぼうで冷たく見えるが、あの面倒見の良さは人の良さの表れだ。
そして優しい人ほどつけ入る隙がある。
相手に悟られず急所を押さえるやり方は、幼い頃からアイト直々に仕込んでもらったリョウの得意技、……いや、生き抜く術だ。
大好きだった兄の顔が浮かぶとリョウから表情が消える。
「アイ兄……」
自分の落とした声にハッと意識が引き戻される。
リョウは頭をぶんぶん振ると奥へと進んだ。
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