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「今夜はここで休めそうだ。動けるか?」
ぐったり伸びているリョウは力なく「無理ぃ」と声をしぼったが、バンビは青い顔をしながらも這うように砂に手をついた。
「や、野営の準備をしなきゃね。このまま真っ暗になったら冗談抜きで死んじゃうわ」
気力で立ち上がろうとすると、セオの手がべしりと額を押さえてきた。
「ぶっ、な、なに」
「そこで待ってろ」
セオは二人から離れると砂に手を置いた。
これは何かを呼び出す時のアクションだ。
リョウとバンビは揃って目を見張り、食い入るようにセオの背中を見つめた。
予想通り砂は渦を巻き、中心が膨れ上がる。
だがその大きさはバイクの比ではなかった。
「おっ、大きい!!何が出てきたの!?」
現れたのは見上げる程巨大な球体だった。
表面は錆だらけだが、一つだけ入口らしきものがある。
バンビは腰を抜かしたが、リョウは好奇心に目を輝かせ、疲れも忘れてひょいと立ち上がった。
「凄い!!これ何なの!?中に入れるの!?」
「非常用シェルターだ」
セオは球体の底から足を引っ張り出し砂地に固定してから二人を呼んだ。
「入るぞ」
「うん!!バンビちゃん行こう!!」
バンビはリョウの手を借りて立ち上がると恐々近寄ってきた。
「本当に入って大丈夫なの?」
「嫌ならそこで野宿してろ」
「……なんでそんな言い方しか出来ないのあんたは」
バンビはブツブツと怒ったが、球体に一歩足を踏み入れると文句が吹き飛ぶくらい驚いた。
表面の無骨さからは想像できないほど中はきちんとした生活空間が整えられていた。
簡易ながらもキッチンがあり、テーブルにソファまで用意されている。
天井はやや低いが、梯子が伸びているということは上にも空間があるのだろう。
「水と非常食はそっちの棚に入ってる。広くはないが寝床を確保するだけなら充分だろ」
「充分どころじゃないよ!!すっごい快適!!」
はしゃいだ声をあげたのはリョウだ。
素直に喜び、既にあちこち触り始めている。
だが砂漠での過酷な夜を覚悟していたバンビはまだ不審な目でセオを見上げた。
「あんたってさ、何者なの?」
「リョウから何も聞いてないのか?」
「リョウのお世話係っていうのは聞いた」
「おせわ…」
セオの端整な顔が苦虫を噛み潰したようになる。
あながち間違ってもいない現状が余計に何とも言えない。
「俺は……」
「あー!!缶詰だ!!バンビちゃん見て!!鶏肉に魚に、すっごいご馳走だよ!!」
勝手に棚を開いたリョウが次々と非常食を引っ張り出す。
安全が確保された上に食料が並べられては、バンビも空腹を思い出した。
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