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……
……
……——あきら。
嬉しそうに名を呼び、小さな女の子がちょこちょこ後ろをついてくる。
明るい色の髪はいつでも風の中でふわふわと揺れていた。
『ユキネ』は運命を分かち合った、たった一人の仲間。
大切だった。
最後の時まで一緒に生きていくのだと信じていた。
あの日、ユキネが新都に行ってしまうまでは。
「……お、セオ」
肩を揺すられ、セオの重い瞼が開く。
黄白色のふわりとした髪が目覚めの視界に入った。
ユキネ?
いや、違う。
あきらではなく、“セオ”と呼ぶのは……
「あ、セオ、おはよう。ぴくりともしないからちょっと心配しちゃった。ぐっすり眠り込んでるなんて珍しいね」
目の前のリョウにユキネの影が重なる。
セオは体に残る生々しい夢から抜けきれず、上半身を起こしても動けずにいた。
「セオ?大丈夫?」
様子のおかしいセオにリョウが戸惑う。
体調でも悪いのかと心配になったが、セオの虚ろな目はリョウの胸元で揺れる結晶石で止まり、骨ばった手が伸ばされた。
リョウの頬をさわりと温かい空気が撫で上げる。
「あ……」
リョウは息を呑んだ。
結晶石を握りしめたセオの周りを黄金の光が取り巻いている。
それは目を焼くような太陽の眩しさではなく、闇夜を照らす月に似た透明度の高い光。
これがセオの色。
なんて清浄で、気高いのだろう。
リョウが恍惚としていると、何の前触れもなく光の洪水は消えた。
視界の全てが一瞬で闇に落ちる。
「セオ……?」
セオは無表情のままうつむいていた。
それが何故か泣いているように見えて、リョウは何も言えなかった。
「今日は……」
「え?」
「今日は、早く出た方がいい。バンビを起こしに行こう」
立ち上がったセオはいつもと変わらぬ様子に戻り、さっさと梯子を降りていった。
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