*バンビの不覚

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「は、速い……!!」 普段穏やかなセオからは考えられないほど鋭すぎる太刀筋が(ひらめ)く。 セオは縦横無尽に襲いかかる砂サソリをことごとく跳ね除け、呆気に取られるバンビに声を荒げた。 「リョウの所まで走れ!!闇雲に攻めてもキリがないぞ!!」 「闇雲じゃないわよ!!砂サソリは先頭のリーダーサソリの動きをなぞるの!!だからそいつさえ目を回せば群れの勢いが削がれるはずだって……きゃ!!」 バンビの知識と判断は間違いではないが、この数を相手に正面から対抗しようというのがまず無謀である。 統制の崩れた群れは散り散りになると二人を取り囲んだ。 「セオ!!バンビちゃん!!」 リョウはバイクに(またが)るとグリップを握りしめた。 「ええぇっと!!確かこうやってエンジンを入れてぇ……!!」 見様見真似でエンジンを唸らせるが、動きだしたバイクはリョウの力では制御しきれず大きく揺れた。 「うわわ!!真っ直ぐ走らないいい!!セオおぉおおお!!」 セオは砂サソリを蹴散らし駆け出した。 「リョウ、こっちだ!!」 バイクのそばに付くとリョウの手の上からがっちりとハンドルを掴み、力技で乗り上げる。 不安定な揺れを立て直し、砂を巻き上げながら車体を急旋回させた。 「バンビ!!」 セオは片手でバイクを扱いながら、戦うバンビの腰を掻っ攫った。 「うぎゃっ!?なになに!?」 「このまま逃げ切る!!後ろに乗れ!!」 「わわ、分かった!!」 バンビはセオにしがみつきながら体をずらし、何とか後ろに座る。 バイクは襲い来る砂サソリを速度で振り払い、群れから飛び出した。 恐ろしいことに周りにいるのは砂サソリだけではなかった。 流れる景色が速すぎて実態はよく見えないが、蠢く砂の塊が方々に散らばっている。 この辺りは最も危険指数が高い砂獣警戒レベル5に入っているのだろう。 「うわぁ砂獣だらけ。新都のそばとは全然違うや」 「リョウ、頭を上げるな。見えん」 「あ、ごめん」 一番前に座るリョウが頭を引っ込める。 セオはしばらく砂を駆けると、巨大なサボテンがいくつも生えた岩山のそばでバイクを止めた。
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