*バンビの不覚

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三人は小休憩を終えると再び最南端を目指して移動をした。 砂嵐が近づいているのか、大気には塵が舞い視界が濁り始めている。 セオが巧みに砂獣を避けながらバイクを走らせていると、リョウが声を上げた。 「セオ、見て!!あそこ!!空が変だ!!」 空まで黄色く染め上げるのは砂塵の壁だ。 セオはバイクを止め、ゴーグルを額に上げた。 「あれが砂嵐だ」 「砂嵐!?砂嵐ってもっと竜巻みたいに渦巻いてるんじゃないの!?」 「大き過ぎてそう見えないだけだ。バンビ、お前の基地はあとどれくらいだ」 バンビは周りの地形を見回し硬い声で言った。 「大体だけど、あの先端の削れた遺跡を目指せば二十分くらいで着くわ」 「……際どいな。下手をすれば砂嵐のど真ん中だ」 「新都軍は?」 「分からん。砂嵐が去るのを待つこともできるが……」 バンビは即座に首を横に振る。 「一刻も早く基地に戻りたいの」 「下手をすれば砂嵐と戦地、両方に飛び込むぞ」 「分かってる」 バンビの固い意志を感じ取ると、セオはくいとリョウを顎でしゃくった。 「リョウ、バンビと席を変われ。これ以上風が強まればバンビの指示が聞こえにくくなる」 「分かった」 リョウは一度バイクから降りたが、席を譲られたバンビは焦ったようにリョウの服を掴んだ。 「バンビちゃん?どうしたの?」 「え!?あ、いや、私、あ、あいつの後ろはちょっと……」 「へ?」 つい先日まで何とも思わなかったのに、変に意識したせいで体が熱くなる。 挙動不審になっていると、リョウがくすりと笑いながら内緒話のように手を添えた。 「もしかしてバンビちゃん、セオのこと好きになっちゃった?」 ちょっとした冗談のつもりだったが、バンビは真っ赤になりながら両手を振りかぶった。 「ちっがぁーう!!そんっっなわけないでしょ!?私にはずうぅっと好きな人がいるんだから!!」 「え、そうなの?」 「そーなのぉ!!その人はねぇ、強くてクールで優しくてかっこよくて、全てが完璧なの!!そりゃ、あいつもちょっと顔はいいかもしれないけど、でも絶対にそんなことないんだってば!!」 バンビの勢いにリョウの体が反る。 「で、でもセオだって強いし優しいよ?っていうか、バンビちゃんってもしかして面食い?」 バンビはぐっと詰まった。 反論できないところが悲しい事実だ。 「と、とにかく。時間がないんだし行くわよ!!」 「うん」 バンビは早くしろと怒るセオの後ろに乗ると、努めて平常心を心掛けながら前の人に掴まった。
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