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*謎の四男アイト
砂漠の最南端は広範囲で樹海に面している。
乾いた砂漠の切れ目に突如として生い茂る緑は嘘のように瑞々しいが、遥か昔より不思議が囁かれるこの『大神の森』に今更疑問を持つ者は誰もいない。
砂漠の中立集団を名乗るルナハクトの基地は、森を背に守るように鎮座していた。
「よう、帰ったかアイト」
偵察隊に混じり、船から降りてきたアイトに一回り年上の男が声をかける。
「ボスが待ってたぜ。新都軍はそろそろライコオ達とぶつかるらしいな」
「ああ。ベル、皆の様子はどうだ?」
「かなり神経を尖らせてる。なんてったってこの最南端まで攻め込まれるのは初めてだからな」
ベルはびっちりと固めた黒髪をひとなでし、太い首をポキポキ鳴らした。
「お前はどうする、アイト。新都の正規軍ともなればひょっとするとお前の顔を知る奴がいるかもしれんぞ」
「僕は新都ではとっくに死人なんだ。戦地に出ても気づかれる可能性は低いさ」
二人は足早に廊下を歩き司令室の扉を開く。
ひっきりなしに飛び交う情報と右往左往する人を避けながら奥へ進むと、獅子の立て髪を思わせる赤毛の男が片手を上げた。
「おう、アイト。遅かったじゃねえか」
「砂嵐を確認してきた。状況は決して良くはないな」
「ったく、ついてねえぜ。砂漠の神は新都軍の味方なのかね」
軽口とは裏腹に、赤毛の男は微塵も揺るがぬ強い眼光で前を見据えている。
気さくでありながら堂々とした風格であるこの男こそが、ルナハクトに生きる全ての者から絶大な支持と信頼を得ているボス、ゼンだ。
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