*揺さぶられた記憶

1/5
前へ
/245ページ
次へ

*揺さぶられた記憶

負傷した足は順調に回復を見せたが、それに伴いセオはリョウを厳しく警戒するようになった。 「ねぇ、部屋から出てもいい?」 「駄目だ」 「お風呂入りたい」 「昨日丸々拭き上げてやっただろうが」 「トイレとこの部屋の往復だけじゃ退屈だよ」 「退屈ならさっさと出て行け」 「ぐぬっ……」 セオは今日も許可をくれずに扉を閉めて行ってしまった。 「ちぇ。思いのほか手強い」 ふてくされながらベッドで大の字に転がる。 鍵をかけられているわけではないが、自由に動き回ることは制限され、結局セオのことも分からずじまいだ。 「これじゃほんとに怪我が完治したらすぐ追い出されちゃいそうだよ。せめてセオともっと話ができたらなぁ」 これは素直な本音でもある。 セオは素っ気無いけれど、決して冷たくはないからだ。 「ふわぁぁ、ごろごろしてたら眠くなってきた。すっかり怠け癖がついちゃったなぁ」 柔らかな枕を引き寄せ、胎児のように体を丸める。 リョウは心地良い誘いのままにうとうとと意識を手放した。 しかしうたた寝とはあまり良くないもので、嫌な夢がリョウを包み込むように迫る。 映し出されたのは逃げ出してきた現実だった。 指を差し嘲笑う人たち。 心を押し殺し、それに微笑みかける自分。 押しつけられた嘘。 作り上げた嘘。 見えない攻撃を防ぐための嘘。 嘘、嘘、嘘。 自分の全ては嘘だらけ。 分かってる。 己というものは余りにもこの世に不必要だ。 「……だ、やだ」 リョウは胸を掻き毟りながら呻き声を上げた。 「いやだ!!アイ兄助けて!!」 自分の叫びで、がばりと飛び起きる。 全身には濡れるほど汗をかき、呼吸は不規則に乱れた。 リョウは冷える体を丸めながら膝を抱えガタガタと震えた。
/245ページ

最初のコメントを投稿しよう!

95人が本棚に入れています
本棚に追加