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「うぅ。アイ兄、アイ兄……」
たった一つだけ信じている名にすがる。
応える声はないけれど、代わりにもふもふが懐に飛び込んできた。
「ルイ?」
温かな体温を抱けば少しだけ悪夢が遠ざかる。
それでも体の震えはなかなか止まらない。
リョウはルイを抱えたままベッドから這い出し、ふらふらと部屋を出た。
向かったのはすぐ隣の扉。
朝になるとセオがいつも出てくる部屋だ。
そっと中に入ると、ガランとした部屋に簡易マットを敷いただけの寝床にセオがいた。
リョウは心から安堵すると、ルイと一緒にセオの隣にもぐりこんで眠った。
時計が朝方を知らせる頃、セオは異様な暑さで目が覚めた。
体が動かないと思いきや、右腕には猫のルイ、左腕には居候のリョウが頭を預けてすやすや眠りこけている。
「……お前らな」
わざわざ自分の部屋とベッドまで提供しているというのに、何故この狭いマットに全員集合して転がっているのか。
セオは四苦八苦しながら体を取り戻すと部屋の外へ出た。
両腕の痺れには苛立ちを覚えるが、気分を変えるためにキッチンへ向かう。
熱いコーヒーを注ぎ、常備しているライ麦パンを一欠片だけ口に放り込みながら馴染んだソファに腰を下ろした。
「はぁ」
気苦労がセオにため息をだだ漏れさせる。
いつまでも秘密を抱えながらリョウに居座られることはかなりの負担だった。
カウンターに置かれた時計はまだ午前五時を差している。
日頃の様子から推察するに、あと一、二時間は誰も起きないだろう。
セオはコーヒーを持ったまま立ち上がると、しばらく入ることをやめていた趣味部屋へと足を運んだ。
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