*揺さぶられた記憶

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セオはすっかり時間を忘れてドライバーを握りしめていた。 趣味部屋と定めているこの部屋は巷の倉庫よりも倍は広い。 床を埋め尽くすのは主に乗り物で、様々な型のバイクや船、潜水艦に似た球体まで転がっている。 セオは無心でこれらと向き合い、どうやら改造に勤しんでいるようだった。 久々に心ゆくまで没頭できたことに満足して手を止める。 冷めきったコーヒーに口をつけながら一息ついていると、扉の向こうから一気に現実に引き戻す悲鳴が聞こえてきた。 「セ、セオォォーッ!!」 やっとリョウの存在を思い出したセオは危うくコーヒーを吹きそうになった。 「なんだ!?」 倉庫を飛び出しリビングに走る。 襲ってきたのは凄まじい勢いではねる水飛沫だった。 「あ、セオ!!セオセオセオ!!助けて!!」 「こんのバカが!!何したんだ!!」 リョウは必死で水の出処を押さえている。 その(かたわ)らには引っこ抜かれた蛇口が転がっていた。 「どうすればそんなことになるんだ!?」 「だって水の出し方が分からなかったんだもん!!ひねれそうなとこひねりまくってたらすっぽり抜けちゃったぁ!!」 セオはシンクの下に潜り元栓を締めた。 荒れ狂っていた水はすぐに勢いをなくしポタポタと雫を垂らす。 頭の上からびしょびしょになったリョウはさすがに反省の色を見せた。 「あ、あの、ごめん」 「だから勝手に部屋から出るなと言ったんだ。さっさと服を脱げ。今度は風邪ひくぞ」 セオは手際よく蛇口を設置し直し、水溜りのできたキッチンをタオルで拭い始めた。 リョウはしょぼくれながら服を脱いだ。 「うぅ、寒い」 下着一枚になると借りたタオルでせっせと体を拭く。 セオは一度手を止めると寝室から自分のシャツを取ってきた。 「とりあえずこれを着ておけ」 リョウの服は丸ごと洗濯、乾燥機行きだ。 リョウはひとまわり大きなシャツをすっぽり着込み、もう一枚タオルを手に取った。 「俺も手伝うよ」 「いるかっ。余計な手間が増える。お前はあっちへ行ってろ」 「今度こそ余計なことはしないから!ほんと!ちゃんと役に立つから!」 右腕を大きく回してアピールをしたが、開きっぱなしの棚の扉にガツンとぶつけてうずくまる。 セオは足元でひーひー呻くリョウに呆れ返ったが、涙目で見上げてきた顔にふと目を奪われた。 「ユキネ……」 「え?」
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